第38章 君と雨の日に〜徳川家康〜
…でも、相変わらず葉月は雨の度に出かけている。
俺もまた、こうやって頼まれてもいないのにあの子を思いながら傘を差して歩いている。
雨の日に彼女を迎えに行くのも習慣になって来たな。
ただ憂鬱でしかなかった雨が、葉月と秘密を共有しているみたいで嬉しくなり顔が綻ぶ。
「…葉月」
そう呼び止めるたびに、嬉しそうな顔をされたら俺はどうしたら良いんだよ。
いつまで友達のふりをしなければならないんだ。
「家康…いつもありがとう」
「別に」
こんな返ししかできない俺に、いつも微笑みかけてくれる。
これで好きにならない方が難しいと思うけどな。
「今日も雨だね…。最近、雨好きなんだ。私」
「ふうん」
「家康は?」
「迎えに行かなきゃって思うから…」
「面倒くさい?」
「そうだね」
心と裏腹の言葉しか出ない。
それでも、葉月は笑う。
「家康らしい」と。
俺らしい…?
この子は一体、俺を何だと思っているんだろうな。
本当は手を繋ぎたいと思っていることなんて、まるで気づいていないのだろう。
「俺たち、いつもこうやって雨の中に歩くだけだよね。…たまには待ち合わせして城下にでも行く?」
「え?!うん、行きたい!」
「へえ。買い物とかしたいの?」
「…うん、そう。そうなの!買い物したい」
「良いよ。付き合うよ」
「嬉しい。楽しみだな」
「予定がわかったら伝えるよ」
「うん!うんうんっ!」
…凄い食い気味。
俺は思わず笑ってしまう。
そんなに楽しみにしてくれるのは、俺だって素直に嬉しい。
この子の好きな物とかは知らないから、欲しがる物を買ってあげたいな。
雨の音が心地良く耳に響く。
この傘にポツポツと落ちていく音まで、幸せに感じるなんて可笑しい。
でも、ずっとこのまま歩いていたい。
この雨の中を。
何もかも洗い流して、俺たちだけになればいいのに。
そんな風に思って、空を見上げた。
どんよりした雲が、灰色の雲が、
真っ黒な俺の気持ちのようで嫌だったのに。
なんでこんなにも、近く感じるんだろう。