第38章 君と雨の日に〜徳川家康〜
それから、葉月は俺の前ではよく喋り、よく笑った。
しかし、この態度は…
「お前、恋愛対象外じゃねえ?」
政宗さんが俺の肩に手を掛けて言った。
俺は横目で睨むと、政宗さんは口の端を上げて俺を見る。
言い返してみろよ、って感じなのか。
俺の反応を楽しんでいるのか…。
どちらにしても腹立たしい。
まさに俺が思っていたことを口に出されたから。
…そんなの、俺が一番気づいてるよ。
「それが何か?」
「まあまあ、そんな怒んなよ」
「別に怒ってませんけど」
「お前、友達できんの初めてだろ?良かったな」
「はあ」
確かに、友達は出来たことないな。
こんな風に明け透けにものを言われたり、言ったこともない。
居心地が良い…。
これが友達なのか。
「別に。葉月が勝手に懐いているだけなんで」
「ほお。言うじゃねえか」
「何のお話ですか?」
「三成、お前に関係ないだろ」
「こら、家康。もっと他の言い方があるだろう」
「おや。家康に言えた義理か?お前もあれぐらい俺に言うだろうが」
「なんだと?!」
秀吉さん達が来て、また騒がしくなる。
その後ろに葉月がいた。
俺を見つけると、嬉しそうに駆け寄って来る。
そして、小さくお辞儀すると、みんなから隠れるように俺の後ろに回った。
「家康、またお部屋に行っても良い?」
俺の着物の袖を引っ張りながら、そっと囁いた。
「え?…うん、いいけど」
俺は返事をしながら、視線を感じて顔を上げるとみんながなんとも言えない温かい眼差しで俺たちを見ていた。
…というか、葉月を、だ。
「良かったな、家康。葉月と仲良くなれて」
「今度、わたくしも仲間に入れて下さいね」
「ほう。なんとも可愛いらしい組み合わせだな」
馬鹿にしている一言と、要らない一言を無視して俺は葉月に向かって言った。
「先、部屋に行ってて」
「う、うん。では、失礼します」
そう言って、葉月はみんなにお辞儀をすると逃げるように去って行く。
まだ葉月は、俺以外の男が苦手なようだ。
一体いつになったら慣れるのだろう。
そう思う一方で、慣れてしまうのは嫌な気持ちもする。
このまま、俺だけ頼ってくれたら良いのにとさえ思う。
…だが、此処の連中はそうはさせてくれないだろう。