第38章 君と雨の日に〜徳川家康〜
「あ、違うの…。でも話してもきっと信じられないと思うし。私もまだ信じられないから」
「何の話?」
「私が未来から来たって話…あれ、本当なの」
「へえ」
あの突拍子のない話、本当だったのか。
別に疑ってもいなかった。
まあ、本気にもしてなかったけれど。
「それが、どうかした?」
「あ…あの時もこんな天気になって、雷と一緒に飛ばされたから…外にいたらもしかしたら帰れるかなって…思って…」
そう言いながらも、どんどん語尾が小さくなる。
信じて貰えないと思っているのだろう。
別に俺は、それが信じるに値するかしないかはどうでも良い。
ただ、この子が信じてもらいたがっている。
だから俺に話したのだろう。
それを感じて嬉しく思った。
この子の味方になってやりたくなった。
それは純粋なそれではなく、そうしたらこの子は俺を頼るのではないだろうか。
そんな邪な気持ちが大半を占めていた。
「ふうん。別に疑ってないけど」
「ほ、本当?」
「そんな嘘ついても葉月に得はなさそうだし」
「信じてくれるの?」
「ああ、信じるよ」
ぱあっと葉月の顔が輝く。
あまりにも嬉しそうな姿にたじろぎそうになる。
こんな顔もできるのか。
いつも城だと悩ましい顔か困った顔しかしてないのに。
「ありがとう」
そう言って、照れくさそうにはにかんで笑う。
ちょっと見惚れそうになるような笑顔だった。
…この子は人見知りなのかもしれないな。
今まで城の中の誰一人、心を許せなかったのだろう。
俺はそう感じた。
「とりあえず、話を聞いてあげるから帰ろう。濡れたままじゃ寒いでしょ」
「うん、そうする」
まるで尻尾が見えるかのような変わりように苦笑する。
きっと、この子は本来こんな感じなのだろう。
「家康なら信じてくれる気がしてたの」
「…は?なんで?」
「ふふ、内緒」
「あっそ」
そうは言いつつも、俺は嬉しかった。
二人でこうやって歩いていると、この雨も、俺たちを包んでくれている。
そんな風に感じてしまうくらいに。