第37章 たとえば、私がお見合いなんかしても〜豊臣秀吉〜
「考えられないな。俺だったら絶対断らない」
「なんでですか?」
「そんなの、当たり前だろ」
「…当たり前って。そんな…」
照れる私を秀吉さんが真っ直ぐに見る。
その瞳の中に熱を感じて、私は思わず目を逸らした。
「…秀吉さん、揶揄うのやめて下さい」
「俺はお前を揶揄ったりしない。お前なら知っているだろ?」
もうっ!そんな風に甘く言うのは、反則です。
ドキドキが止まりませんよ。
どうしてくれるんですかっ。
私は自分の頬に熱を感じて、両頬を触りながら縮こまる。
「秀吉さんのせいで、顔が赤くなりました」
「そうか、なら俺が隠してやるよ」
「え…?」
秀吉さんの大きな身体に包まれて、私は本当に隠されたみたいに見えなくなる。
私は文句を言いたかったはずなのに、これだと顔に、背中に、秀吉さんの体温を感じてしまい思考もままならない。
「これなら誰も見えないだろ?」
そんな風に言われたら、なんて答えたら良いのだろう。
…戯れ、かな。
でも、秀吉さんはそんなことする人じゃない。
それがわかるから、余計に混乱する。
「あの、お見合いの件は…」
「そんなに嫌なら俺から断っておくよ」
「…はい。ありがとうございます」
今起こっている状況の方が気になるのに、何を言っているんだろう。
こんなことしか言えないくらいに余裕がない。
「好きになった相手が悪かったな。お前を振るような奴なんか見る目ないさ。… 俺が忘れさせてやろうか?」
……こ、この人は。
天性のたらしだ。
駄目だと頭ではわかっているのに、進みたがる気持ちが抑えられそうもない。
「葉月、可愛い顔を見せて」
あ、今…落ちた。
こんな風にあっさりと落ちるものなのだろうか、恋というものは。
もう傷痕などない恋のせいにして、甘いひとときを味わうのは間違っているかもしれない。
でも…。
秀吉さんとなら…いいな。
「良いんですか?私で」
「…葉月がいいんだよ」
「もう、本当にずるいですよ。私、断るの苦手なのに」
「そうか、それは良いことを聞いたな」
そう囁いて、慣れた手つきで唇を奪う秀吉さんを、私は拒めなかった。
ー……奪われたのは、唇だけじゃないのを感じながら。