第2章 続・朝が来るまで待って〜明智光秀〜
ふと、ある物を見つけて足が止まった。
もう秋なのに、紫陽花の飾りがある。
「何かお探しかい?」
商人から声を掛けられた。
「いえ…綺麗な髪飾りばかりですね」
「全部特注品だよ。君はさっきから、この紫陽花の飾りを良く見ているね」
「はい…紫陽花は母の誕生月の花で。好きな花、だったので」
「では、お母さんにお土産を?」
「いえ…。もう、会えないので」
「…そうか。君のお母さんならさぞかし綺麗な方だったんだろうな」
「はい!私の母は…」
パッと顔を上げると、その商人と目が合った。
端正な顔立ちに、微笑みを絶やさない口元。
がっしりとした身体付き。
気品が溢れていて、育ちの良さを感じさせる。
どこか見覚えのあるような…
「あの、失礼ですが、何処かでお会いしたことありませんか?」
「残念だなぁ。こんな美人と会ったら忘れないはずなんだが」
「……」
「この後はお暇かな?
美味しい茶屋があるからご一緒にいかがかな?」
「何やってんの、あんた」
冷ややかな声がした。
「家康!」
振り向くと、いつもより苛立ちを隠せていない様子の家康がいた。
「おや、連れがいたのか残念だ」
家康が一瞬強く目を光らせ、軽蔑したように相手の男を睨む。
それでも、その商人はニコニコと微笑みを崩さない。
つ、強い…。
私だったら謝ってしまいそうな気迫なのに。
「帰るよ」
そう言うと、先に家康は歩き出した。
「あ、お嬢さん。その髪飾りもとても似合っていますよ。また来て下さい」
「あ、ありがとう…ございます」
お辞儀をしてその場を去った。
「ふぅん、徳川家康か…面白い」
にやりと商人は笑った。
私は、慌てて家康を追いかけた。
「あんたまで迷子にならないでよ」
「ごめん…」
「気に入ったものは買えた?」
「あ!さっきの紫陽花」
「買いたかったの?」
「うん…でも、いいや。これが買えたし」
そう薄桃色の簪を触りながら笑った。
「そう?良かったね。じゃあ、二人で茶屋でも…」
「家康様ー!」
「あ、三成くん。良かったぁ」
「逸れしまい、申し訳ありませんでした」
「…三成、やっぱりお前って嫌い」
「心配して下さったのですね、家康様。本当にお優しいです」
「…本当にムカつくんだけど」
笑いながら2人のやりとりを見ていたら、遠くに見覚えのある白い着物。
あれは…
光秀さんだ。