第35章 好きだから・後編〜明智光秀〜
「はい、ぁ…っ!?」
それ以上は話せなかった。
塞がれたのだ、光秀さんの唇に。
光秀さんは、私の両頬を長い指先で包み込むと優しく口づける。
そして、ゆっくり唇を離した。
あまりにも近い距離で視線が交わり、急に恥ずかしくなる。
自分から仕掛けたくせに、何を照れているのだろう…私は。
これだから小娘と言われてしまうんだ。
「どうした?急に静かになったな。さっきまでの威勢はどうした」
「は…恥ずかしくて」
「ふっ。頬が真っ赤だな」
「やだ。あんまり見ないで下さい」
心臓が壊れそうな私とは、光秀さんは真逆だ。
慣れているのだろう、きっと。
俯きたい、視線を逸らしたいのに光秀さんに固定されたままの両手が許してはくれないのだ。
「やめて欲しいなら、そんなに可愛い反応をするな」
「あ、光秀さん…」
「お前はわかってないな。そんな風にされたら余計したくなるものだ、男はな」
そう言うと、再び柔らかい唇が当てられる。
ずるいな。
またこうやって、私を蕩けさせるなんて。
もっと欲しくなってしまったら、どうしてくれるのだろう。
光秀さんに掴まりたくなり、手を伸ばして光秀さんの着物をそっと握った。
そんな私を光秀さんは優しい眼差しで見つめ返す。
まるで、やっと手に入ったと言わんばかりの表情だ。
これは、私がそう見えるだけなのかな?
光秀さんも私に好意があると自惚れてしまいそう。
この口づけには深い意味があると思って…良いですか?
「好きです、光秀さん」
「ああ、知っている…。でも、俺にこんな想いをさせるなんて…悪い子だな。お前は」
良い子と言われるより嬉しい。
そんな風に思うなんて変かな?
光秀さんの熱い吐息がかかり、私は体温が上がる。
身体の中も温かいんだな、光秀さんは。
「続きがしたくなったら、俺の御殿に来い。…待っている」
本当にずるい人だ。
こうやって火をつけたまま居なくなるんだから。
でも、私は返事をしてしまうのだろう。
「はい、光秀さん…」
ー……貴方が好きだから