第35章 好きだから・後編〜明智光秀〜
光秀さんの部屋に通され、私はすぐさま正座した。
別にしろとは言われていない。
光秀さんの威圧感で私は自ら座ると、ただ黙って言葉を待った。
「さて、なぜ抱きついていたのか詳しく聞こうじゃないか」
「ちょっと嬉しいことがあって」
「なるほど。嬉しいことがあると、お前は誰彼構わず抱きつくのか」
「そんなことないです…」
「さあ、どうだかな」
小さく溜息を吐く光秀さんの顔がまともに見れない。
きっと呆れられている。
自業自得だが、悲しい。
「全く。何を浮かれているんだ、お前は」
「あ、それは…その…」
「家康ならまだしも、秀吉にまで抱きつくとはな」
「なんで秀吉さんは駄目なんですか?」
私はわからなくて、光秀さんに問う。
「家康は想いをうちに秘めるが、秀吉は素直な分、厄介だ。後々面倒だからな」
「…面倒?」
「まあ、お前はわからなくても良い」
わからなかった。
しかも、何で私が家康に抱きついてたって知ってるんだろう?
…もしかしたら、久兵衛さんに見られていたのかもしれない。
そうだ。
だからこうやって…。
ん?
だから、こうやってわざわざ…?
これだとまるで…やきもち妬かれているみたいじゃない。
私の胸が期待に膨らみ、疼いていく。
聞きたい。
でも、違うかもしれない。
私は光秀さんを見つめた。
ー…知りたい、貴方の気持ちが。
「お前には男がどういう生き物か、しっかりと教えてやらんと駄目なようだな」
「光秀さんが教えてくれるんですか?」
「何を言っている。俺はな…」
「教えて欲しいんです。知りたいんです。もっと、貴方のことが」
「…葉月」
「教えて…お願い」
私が見つめると、光秀さんの長い指先が頬に触れる。
熱を持ち始めている私の瞳には、もう光秀さんしか映らない。
「本気で言っているのか?」
「はい…」
「この間みたいに、そんなつもりじゃなかったでは済まされないぞ…葉月」
こんな時まで、私の逃げ道を用意してくれているのだろうか。
それとも、怖いの?
私とこれ以上の関係になることが…。
そうだと良いのに。
貴方の心を揺さぶれるような人になりたい。