第34章 風邪を引いた朝は…〜上杉謙信〜
「いやぁ〜、愛の力は素晴らしいな。姫の風邪もあっさり治るのだから」
三日振りにみんなで頂く朝餉の時。
大きな声で信玄様に言われ、私は恥ずかしくて居た堪れない。
幸村と佐助くんは安堵の表情だ。
…きっと、やっと訪れたいつも通りの日常に安心しているのだろう。
私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
一夜の後、あっさり治ってしまった私の風邪は一体何だったのだろうか。
「ご迷惑をおかけしました」
私が頭を下げて謝ると、次々と声が飛び交う。
「いや…元気になって良かったよ。幸村も葉月さんがいないと寂しいって言ってたし」
「おいっ!寂しいなんて言ってねーよ。つまんねぇって言ったんだ」
「ほーお。そうか。つまらなかったのか、幸は。可愛い所があるなぁ。確かに退屈そうだったものな」
「なっ!信玄様、何言ってるんすか!」
「幸村、ツンデレだな。萌えー」
「佐助のはぜってぇ褒め言葉じゃねーだろ」
このやり取りを聞くのも久しぶりな気さえする。
思い出したように「そうだ!」と言って、私はみんなに礼を言う。
「差し入れありがとうございました。全部美味しかったよ」
「…差し入れ、だと?」
私の言葉に謙信様の眉がぴくりと動いた。
「えっ」
「わ、馬鹿」
幸村らが慌てたので、私は口を噤んだ。
あれ?
内緒って言われていたかな?
「貴様ら、葉月に近づくなと言っただろうが」
「まあまあ、謙信。もう治ったんだから良いじゃないか」
「信玄、貴様が一番信用ならん」
「そうですよ。信玄様まで何してるんすか」
「可愛い姫が弱っている時に放っておける程、俺は落ちぶれていないからな」
「…かっこいい」
「褒めんなよ、佐助」
私はその会話を聞いているだけで、元気になる。
きっと、此処も私の家族なんだ。
謙信様もみんなも、私に力をくれているに違いない。
私は微笑みを浮かべていた。
「葉月の笑顔に免じて許してやる」
そう言って笑う謙信様は、眩しく温かかった。
みんなで食べる朝餉は格別ですね。
そう私が言うと、謙信様は「お前がいるからな」と答えてくれて嬉しくなる。
どうか、こんなささやかな幸せがいつまでも続きますように…。
そう願いながら。