第34章 風邪を引いた朝は…〜上杉謙信〜
夜になった時には、私もすっかり参っていた。
こうも良くならないと、困ってしまう。
せっかく謙信様と寝室も分けてもらって、自室で寝ているというのに…。
一人で眠るのも現代で慣れていたはずなのに、謙信様と一日二日共に寝れないだけで私は寂しくなって来てしまった。
私はそっと謙信様の部屋まで行く。
暫く襖の前で入るか入らないか考えていたが、決心すると静かに襖を開けた。
まだきっと、起きているだろうと思っていたのだ。
でも、謙信様は部屋には居なかった。
ちょっとほっとしたような残念なような気持ちが入り乱れ、溜息をつく。
すると、襖が閉まる音がして振り向くと謙信様が立っていた。
「何処に行くつもりだ」
「か、帰ろうかと…自室に」
「ならん」
「…ごめんなさい。私…」
「怒っているのではない」
「はい…」
「お前が此処に来たということは、もう風邪は良いのか?」
まだ、完全に良くなってはいない。
…だいぶ声を出せるようにはなったけれど、まだ喉に違和感があるし。
私から謙信様にお願いしていたのに、こんな中途半端な状態で会いに来るなんて良くないのはわかっている。
でも…謙信様の側に今日はいたい。
どうしても。
「お前から俺の所に来たのだ。どちらにしても、お前を此処から出してやる気はない」
二色の瞳が余裕の無さを表し、私を捕らえて離さない。
私の胸が高鳴るのを感じた。
「謙信、様…」
「もう、この腕の中に閉じ込めても良いのだろう?」
私が返事をするより先に腕を引っ張られ、謙信様に抱きすくめられていた。
あぁ、なんて安心するのだろう。
謙信様との触れ合いを禁じたのは私からなのに、私の方がずっと恋しがっていたなんて。
今頃気づき、苦笑する。
「もう何処にも行かせない。ずっと俺の腕に抱かれていろ」
「はい…謙信様。私もずっとこうされたかったんです」
「…葉月」
気づいたら口づけをしていた。
深く、もっと深く。
私を溺らせることが出来るのは、この人しかいない。
「葉月…葉月…」
私の名を何度も呼んで、私を求めてくる謙信様の重みが何より落ち着く。
あなたとなら果て無く堕ちていける。
たくさんの口づけと愛の囁きで、私は満たされていくのを感じた。