第34章 風邪を引いた朝は…〜上杉謙信〜
佐助くんの言葉に私が頷くと、謙信様は此方を見て顔を青ざめる。
「お前も風邪が治るまで近づくなと言うのか、葉月」
「…はい」
「俺に死ねと言っているようなものだぞ」
「んな、大袈裟な」
幸村が呆れて呟くと「黙れ」と謙信様が幸村を睨む。
信玄様がそんな謙信様の肩を優しく叩いた。
「まあまあ、謙信。声を出すのも辛そうじゃ仕方ないさ。安静にさせてあげよう」
こういう時の信玄様の助言は有り難い。
謙信様もやっと少し納得してくれたようだった。
「……そうか。では、葉月。風邪が治るまでは一切この城から出るな、他の者と話すな」
「え?!ちょっとやり過ぎじゃないですか」
「煩い。これは決定事項だ」
「あーぁ。なんかめんどくせぇことになったな」
私は無言で頷くしかない。
謙信様も我慢してくれようとしてるんだから。
…なんで風邪なんて引いてしまったのだろう。
そして、幸村の肩をチョンチョンと突き、手を合わせ口元だけで『ごめんね』と言った。
幸村は眉毛を片方だけ上げ、首を軽く振り「気にすんな」と小さな声で返してくれた。
「おい、そこ。近づくな。話すな」
「…はいはい。葉月、お大事にな」
幸村はそう言って私から離れ、手を頭の後ろに組んだ。
なんだかんだ言って、幸村は優しいのだ。口は悪いけれど。
私は微笑んだ。
…ありがとう、幸村。
「葉月、幸村に微笑むな。もっと離れろ」
「いや、それはちょっと謙信様…。私情を入れ過ぎです」
佐助くんは幸村と顔を見合わせて溜息をついた。
これは…想像以上に大変なことになる。
二人はもう察しがついたようだった。