第34章 風邪を引いた朝は…〜上杉謙信〜
「んっんん?」
朝、起きた時に喉に違和感を感じた。
これは…。
「ぉはよゔございまず…」
私が挨拶をすると、バッとこちらにみんなの視線が刺さる。
明らかに、いつもよりハスキーで渇いている自分の声に恥ずかしくなり、俯いた。
「葉月さん、どうしたのその声」
「のどが…」
「風邪?」
佐助くんの質問に私が眉を下げて頷くと、信玄様がすかさず私の手を取り、同情したように言った。
「可哀想に。葉月の可愛い声が聞けないのは残念だが、これはこれでまた新鮮だな。悪くはない」
「…そうですか?酒焼けみたいな声でしたけど」
「幸はまだまだ未熟だな。このちょっと低い声がいいんじゃないか」
「意味わかんないですよ。俺は断然いつもの声の方が…」
「へえ。幸村、葉月さんの声が好きだったのか。確かに声フェチとしては葉月さんのは堪らないよね」
「なっ!ちげーよ。てか、なんだよ。ふぇちって」
「俺はどちらの声も好きだよ、姫君」
「信玄、当たり前のことを言うな。すぐその汚い手をどけろ」
「謙信様、どうどう」
いつもの四人のやりとりに私が和んでいると、謙信様が私の反対の手首を掴んで信玄様から離す。
「葉月、口を開けろ」
私が言われた通り口を開けると、柔らかい物が入ってくる。
これは…梅干しだ。
「上手いか?」
「ふぁい」
私が口を押さえながら頷くと、謙信様が満面な笑みを浮かべる。
…でも、梅干しは一体どこから?
「梅干しは万能だ。喉にも良いだろう」
「…ぁりがとゔございます」
謙信様の顔が近づいてきて、私は思わず顔を背けてしまう。
移したくはない、謙信様には。
すると、それを察した佐助くんが私たちの間に立ちはだかる。
「…あの、お取り込み中に失礼します。謙信様」
「なんだ、佐助。邪魔するな」
「大変申し訳ないのですが…。暫く控えて貰えますか?」
「…控える?」
「風邪が移ってしまいますから」
佐助くんが謙信様の耳元で「戯れやそれ以上のことも駄目です」と言ってくれたようだ。
どんどん険しくなる謙信様の表情で大体何を言われているか、わかる。
…ありがとう、佐助くん。