第33章 好きだから・中編〜明智光秀〜
光秀さんはふと手を止めると、私の顔を覗き込んで言った。
「お前は顔に全部出るんだな。書いてあるぞ"不満"とな」
「…だって」
「どうした?言ってみろ」
「私、子どもじゃありません。もう少しで良いので、大人の扱いして下さい」
言いながら気づく。
この発言こそ子供っぽいじゃないか。
私の言葉に光秀さんがおもむろにため息をついて、肩をすくめた。
「そうか。子ども扱いは不満なのか。…なら仕方ない」
「…光秀さん?」
「俺も一緒に横になろう。それなら良いだろう?」
「よ、良くありません」
「…そんなに喜ぶな。本当に寝れなくなるぞ」
「なっ!ち、近いです」
私の横に寝そべって光秀さんは肘をついた。
…だから、違うってば。
そんなの無理だって言ってるのに。
私は顔を覆って横を向くことしかできない。
直視できず、私はそのまま抗議する。
「もう!揶揄うのはやめて下さい」
「…どうした。耳まで真っ赤だな」
「誰のせいですか」
「…わからんな」
貴方のせいに決まってるでしょう!
私は心の中でため息をつく。
本当に寝かせる気があるのだろうか、この人は。
私の鼓動は加速するばかりで、落ち着く気配はない。
そして、あることに気づいた。
「光秀さんって、私のこと全然意識してないですよね」
「…そう見えるか?」
「見えますね。あまりにも以前と変わらないんですもの」
私があんな風に告白しても、この態度だ。
むしろ前より意地悪になったくらいで。
私だけが振り回されているのが、悔しい。
そして、私だけこんなに意識して…。
馬鹿みたいだと思ってしまう。
「それに返事を頂いてないです…私」
「欲しいのか」
「はい、一応」
「…そうか」
「葉月、俺の返事はな…」
「……っ!やっぱりいいです」
私は光秀さんに向き直り、その口を手で塞いだ。
良い返事じゃないことくらい、私にもわかる。
気まずくなるくらいなら、聞きたくない。
「泣いているのか?」
「泣いていません」
「では、今横に流れたのはなんだ」
「光秀さんの気のせいです。何も流れていません」
この人を困らせるようなモノは流さない。
潤んだ瞳を誤魔化そうと、私は素早く目を擦った。
でも、赤くなった目元は誤魔化せてはいないのだろう。