第33章 好きだから・中編〜明智光秀〜
…やっぱり言わなければ良かった。
「どうした?葉月」
夜更けに自室に来た光秀さんを見上げて、私は昨日の告白を後悔していた。
だって、明らかに愉しんでいるもの。
「光秀さん、私で遊ばないで下さい」
「遊ぶ?遊んでいいのか?」
「もうじゅうぶん遊んでますっ」
光秀さんの口元が意地悪く上がっていく。
私が本気で嫌がれないのを知っているから、こんなに余裕の笑みなのだろう。
「私、他人がいると気になって眠れないんです」
「昨夜はぐっすり眠っていたぞ」
「うっ…昨日は走り過ぎて疲れてたから、です。今日は目が冴えて寝れません、絶対」
「では、俺が必要だろう?だから寝かしつけてやると言っているんだ」
「あ、違います!光秀さんがいると、という意味ですってば」
私が慌てふためいているのがそんなに面白いのだろうか。
光秀さんは、笑いを堪えながらこちらを見ている。
もうっ!この人、絶対楽しんでる。
私の反応が予想通り過ぎるに違いない。
「では、俺の目を見てしっかりと断れ。『帰って下さい。光秀さん』とな。そう言えれば大人しく帰ってやろう」
「え…」
「ほら、言ってみろ」
言えるわけない。
だって、側にいてもらえるだけで本当は嬉しいんだから。
わかっているくせに。
私が少し涙を滲ませて唇を噛むと、光秀さんがぽんぽんと頭を撫でる。
「ほら、言えないだろう?…いい子だから、諦めて寝るんだな」
「……」
「返事は?」
「…はい」
光秀さんが気にすることないのに。
まだ昨日のことに責任を感じているだけなのなら、止めて欲しい。
そうに決まっているのに、心の片隅で淡い期待を持ってしまう。
そんな浅ましい自分を感じて嫌になる。
私が大人しく褥に横になると、光秀さんがふんわりと布団を掛けてくれる。
…完全に子ども扱いだ。
昨夜と全く同じように、私を寝かせるつもりなんだ。
ぽんぽんと布団を叩く光秀さんを何も言わずに見つめた。