第2章 続・朝が来るまで待って〜明智光秀〜
「…どっちでも良いんじゃない?」
「葉月様、どちらもよくお似合いです」
私はさっきから、小花柄の色違いの簪で悩んでいた。
家康と三成くんの意見に余計に頭を悩ませる。
確かにどっちでも良い気がする。
でも、こっちの方がどの着物にも合いそうだし…。
「…右の方。そっちの方が似合う」
家康は薄桃色の簪を選んでくれた。
「本当?じゃあ、そうする。これ、頂けますか?」
嬉しい。私も薄桃色の簪が始めから気になっていたのだ。
早速、髪につけてみる。
「とてもお似合いです!家康様のお見立ては流石ですね」
「…煩いな」
城下に来るのは久しぶりだった。
秀吉さんに小遣いを貰ったのだ。
誰かと同行するのを条件に、お出かけを許可して貰えた。
朝帰りの件をまだ許して貰えていないのかもしれない。
三成くんが来てくれると言ったが、家康が逆に心配だと一緒に来てくれたのだ。
しばらく三人で話しながら歩いていたが、
気づいたら横にいた三成くんがいなくなっていた。
「…やっぱりね。
どうせ、誰かに捕まっているんでしょ。
あいつは律儀に相手するから」
放って置けば良いと家康は言った。
そうだよね。三成くんなら私みたいに方向音痴じゃないし。
大通りを2人でしばらく歩いていると…
顔見知りの女の子達を見かけた。
コソコソとこちらを見ながら話している。
私はあの目線に見覚えがあった。
「家康…、昔、親友が一番人気の男の子と付き合っているって噂になった時、女子全員から無視されたことがあってね」
私は前を向きながら話す。
「…はぁ、何それ。くだらないね」
「うん…そうなんだけど…」
今、その親友の気持ちがわかる。
きっと、こういう状況だったに違いない。
あちこちから鋭い視線を感じて、横を向けない。
もしかして、家康の隠れファンってものすごく多いのではないだろうか?
「家康って…女の子達から声掛けられたらどうするの?」
「知らない人とは話さないね」
「恋仲になって欲しいとか…言われない?」
「興味ないからって断ってる」
やっぱり!
そんな家康が城下で女の子と歩いていたら妬まれて当然な気がした。
「…きっと、その子たちは家康と仲良くなりたいんだと思うよ。」
「いや、そうでも無理。それに、あいつらは勝手に理想を押しつけているだけだよ」
心底、げんなりした顔で言う。