第31章 俺にしなよ〜徳川家康〜
しばらく間をおいて、家康が言った。
「…ちょっと。もう一人忘れてない?」
私は首を傾げた。
「あと…誰かいたかな?」
私が指を折りながら数えていると、家康が人差し指で自分を指差した。
涼しげな表情で顔を近づけられ、私は焦った。
「お・れ」
「え?!家康?」
何度も頷かれ、私は驚いた。
家康以外でって話かと思ってたのに。
「家康…女の子苦手でしょ?」
「まあ。で、どうなの?」
「うーん…」
私は眉の間に激しく皺を作って、腕組みをする。
家康はそんな私を呆れたように見た。
「そんな悩む?」
家康を正直、そういう目で見たことはない。
「ごめん、わかんない。まるで想像できない」
「…なんで?」
「わ、わかんない…けど」
そんな真面目な顔して聞かれると、困ってしまう。
イケメンの破壊力って凄いな。
心臓に悪いんですが。
「じゃあさ、俺がいいじゃん」
「……何をおっしゃってます?」
どうしたらそういう結論になるんだ?
私は目をパチクリさせて、家康から少し身を引いた。
冗談なら、笑えない冗談だ。
「あんた、俺となら緊張しないでしょ。俺は謎もない。隠し事しないし、あんたの前ではありのまま。…でも、三成みたいに阿保じゃない」
「…私、三成くんのことはアホって言ってないよ?」
「知ってる」
両手を後ろにして、寄り掛かり私を見ながら家康は飄々と言う。
「駄目な理由がないじゃん。俺だと。想像できないなら、想像できるようなことすれば良いよ、これから」
胸がドキドキしている。
これば驚いたからドキドキしてるのか。
女心のドキドキなのか、わからない。
困った。
だって、断る理由がない。