第30章 涙を流す場所〜織田信長〜
私が政宗に見惚れそうになった時、政宗の目が妖しげに光った気がした。
「政宗…?」
「待て」
信長様の声が私たちの動きを止めた。
いつからそこに立っていたのか。
殺気を感じるくらい、信長様から嫌な空気を感じる。
「いつまでそこで話しているつもりだ」
「す、すみません…」
私は思わず謝ってしまう。
横を見ると、政宗は楽しげに口元の端を上げていた。
彼は気づいていたのだろう。
この余裕そうな笑みからわかる。
反対に信長様の表情は、寒気を感じるくらい冷ややかだ。
いつも私に見せてくれる顔とは違う。
「葉月、此方に来い。政宗、葉月への話は日を改めるんだな」
「…御意」
「え…ちょっと…」
私は手を掴まれ、また引きずられるように天守閣に連れて行かれた。
何がなんだかわからず、私は引き戻されてしまった。
部屋に入っても信長様は私の手を離さなかった。
それが嬉しくて、掴まれたままの手を凝視してしまう。
「何を喜んでいる」
「そんな顔、してますか?」
「…してるな」
だって、信長様の手が私を触れてるんですよ?
笑みが溢れるのは仕方ないと思います。
信長様は息をつき、手を離した。
離れてしまった手が…寂しい。
私は、自分の手を握りしめた。
「不可解な奴だ、貴様は…。泣く理由も告げず、毎回俺を訪れるわりには泣き止んだら消えていく。わけがわからん」
「信長様にもわからないことがあるのですね」
「…あぁ、そうだな」
「こんなにわからんのも、知りたいと思ったのも…貴様が初めてだ」