第28章 趣味の悪い君に〜猿飛佐助〜
不意に話題に出た、昔好きだった芸能人の話。
意外にも君の好みは一般受けしない、渋い人だった。
「でも私、実際付き合う人は違うの…男の趣味、悪いから」
君が俺にそう告げた自虐の言葉。
それで恋に落ちたと白状したら、君は笑ってくれるだろうか。
あの困ったような笑顔。
いつ思い出しても愛らしい。
俺だったら、絶対大事にするのに。
そう思ったんだ。
きっと葉月さんは、昔からモテたに違いない。
可愛い女の子というのは、総じて図々しい奴らに狙われがちだ。
普通は高嶺の花だと諦めようとするのだが、そういう軽い奴らは気にせずズカズカと踏み込んでいく。
可愛い分、男に苦労しやすいのだろう。
…俺はそう分析した。
「クリスマスに良い思い出、ないからなぁ」
彼女はクリスマスを祝う習慣のない、この時代のそれだけは気に入っていると笑った。
参ったな。
クリスマスプレゼントをあげるタイミングを完全に見失った。
この左手に隠し持っていた特性の撒菱と煙玉をあげようと持って来たのに…。
「…んなもん、いらねーよ。あげなくて正解だったな」
「幸村、正直過ぎて逆に清々しい」
「お前、無表情でツッコむなよ。こえーよ」
俺の話を幸村が一喝した。
「だいたいよぉ、女ってもんは実用的な物より、やれ花だとか髪飾りだとか…そういうのが良かったーとか言うんだぜ?」
幸村は女なんかこの世にいなければいいのに、くらいの勢いで文句を垂れた。
幸村は顔は整っているのに、異性関係はまるで駄目だ。
勿体ない…が、彼はそんな事よりもこの世を良くする為に生きている。
男の中の男だ。
「幸村…俺は幸村からなら何貰っても嬉しい」
「お前に好かれても嬉しくねーよ」
そう言って笑った。
幸村だけには、この胸のうちを伝えることが出来た…唯一無二の友だ。
だがやはり、彼女には伝えられそうもない。