第26章 雨でも晴れていても〜明智光秀〜
「なんて顔してんだよ」
ふいに後ろから声がして、振り向いた。
政宗が腕を組みながら苦笑いして、縁側で雨を睨む私を見ていた。
「そんなに酷い顔だった?」
「…まあな」
少し顎を上げて私を見下ろし、政宗はちょっと笑う。
「お前、雪だけじゃなくて、雨も嫌いなのかよ。…雪が降った時もそんな顔してたな」
違うとは言えず、私は口籠る。
ズバリ言い当てられた気がした。
「つめてぇ〜。血、通ってんのかよ?」
気がつくと、政宗は私の前に跪き、私の手を掴んでいた。
政宗の手が温かい。
あの人とは違う。
温かい手だ。
「俺なら、離さねーけどな」
ふと小さな声で呟く。
私には、何と言っているのか聞こえず首を傾げた。
すると、政宗は息をつく。
「お前なぁ、遠くばっか見てんなよ。目の前にこんなにいい男がいるだろ?」
そう言って、私の前に顔を突き出す。
本当だ…凄く整っていらっしゃる。
「確かに」
私が感心すると、政宗はからからと笑い「マジで返すなよ」と言った。
笑顔から急にふっと真面目な顔して、政宗は私の目を捉えた。
「お前さ、一回抱かれてこいよ」
「…はい?」
「そんなに好きならさ、言って来いよ。そんな廃人みたいな顔してねーで。
人生、一度きりだぞ。もう二度と会えなくなったらさ…お前、後悔するだろ?乱世の明日なんて、どうなるかわかんねぇ。今を大事にしろ。うじうじしている暇はねぇだろーが」
「…もし振られたら、俺が朝まであっためてやるよ」
最後はちょっとふざけた感じで言われた。
「冗談?」
「どうだかな。てめーの頭で考えろよ」
そう言って、頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「頑張れ。応援してやるからさ」
「…ありがとう」
「笑顔が似合うと思うぜ、葉月には」
鼻をちょんと指先で触られ、私は照れた。
「そこは照れんのかよ。意味わかんねー」
政宗は私の反応に項垂れた。
政宗は最後に私にこう言ったのだ。
「もし受け入れて貰えなくても、お前に価値がないわけじゃないからな。忘れんなよ」
「お前は最高なんだ。誰が何と言おうとな」
政宗は、温かかった。
何もかも。
最後の言葉に救われ、政宗に不覚にもときめいてしまったのだ。
彼はただ励ますために言っただけだと思うのに。
政宗は、私の中に火を灯してくれた。