第26章 雨でも晴れていても〜明智光秀〜
「どうした、元気がないな」
光秀さんは私が落ち込んでいると、いつも気づく。
一番に気づいて欲しい人だから、無意識に嬉しくなってしまう。
そして、はっとする。
元気をなくさせている、張本人だ。
私は少し冷たく答えた。
「そんなことありません。いつも通りです」…と。
会わない時に、もうこの恋はやめよう、諦めようとどんなに決意しても、本人を目の前にすると…やはりときめいてしまう。
あっさり好きが勝ってしまう。
私は簡単なのだ。
結局、この人の登場で、決意は脆く崩れてしまう。
光秀さんは、人の気持ちに敏感だから。
私のこの落ちている想いにも、気づいてしまうのだろう。
本当は優しいからタチが悪い。
弄んで棄ててくれたら、いっそのこと諦めがつきそうなのに。
…でも、あの時の口づけみたいに、不意打ちのままいなくなるのは勘弁して頂きたい。
私は何もなかったような顔ができるような、大人ではないのです。
それも、戯れなら…私はどうしたら良いのか。
あの雪の日は、冷たい唇が一瞬温まり…そしてそれ以上温まることはなかった。
「悪かったな」
と、彼は言った。
悪かったって…なんだろう?
なんで謝られたのだろう。
戯れて悪かったのか
気持ちを知っているのに、悪かったのか
どっちにしても、良い意味ではなさそうだ。
今日は雨が降っている。
朝からとても寒い。
手が冷たくなる。
足先も冷たい。
私の好きな雨なのに。
あの人と唯一、同じ好きな雨なのに…
今日は、この雨が憎らしい。
余計に悲しくなってしまう。
私の中にも冷たい雨が降っているみたいだ。
雨なんか、好きにならなきゃ良かったんだ。