第23章 雪を見た時、誰を想うか〜明智光秀〜
雪を見た時、誰を想うか。
この雪を誰と見たいと想うか。
雪なんて寒いだけなのに、どうしてこんなにも胸を締めつけるのだろう。
会いたくなってしまうから…あなたに。
深々と積もる雪。
どうしてこんなに綺麗なの?
私の気持ちもこんなに綺麗だったら良いのに。
そうしたら、あなたにも伝えられるかもしれないのに。
あの人が欲しくて堪らないなんて。
汚して貰っても構わないなんて。
この雪が知ったら、軽蔑するわ。
「光秀さん…今日はあなたに会いたい」
いつも、いつでも逢いたいけれど、今日は特別に。
あなたと雪を見ることが出来たら。
きっと素直になれる。
雪を手のひらに乗せてみる。
じゅわっと消えていくのを、見つめていた。
「…いつまでそこにいるつもりだ」
振り向かなくてもわかる。
この低い声。
冷たくて暖かい、この声。
光秀さん…。
「雪、見てました」
「そうだろうな」
「光秀さんは、雪は好きですか?」
「好きとか嫌いとか考えたこともない」
「そうですか…」
私が黙ると、光秀さんも中庭に出て来た。
私の前で止まると、私の肩や頭についた雪を優しく払ってくれた。
「冷えるぞ」
「大丈夫です」
「嘘をつけ」
光秀さんは私の手をとると、両手で包み込み、はぁーと息をかける。
暖かい息がかかり、冷えていた心まで温まっていく。
また、そんな風に優しくするから。
私、期待しちゃうんです。
単純だから…。
私は、光秀さんの手を握っていた。
「どうした?」
「消えちゃいそうで、心配になって」
「俺は雪ではない」
「…知ってます」
この人の手の方がずっと冷たかった。
いつから此処にいたのか。
もしかして、結構前から…?
きっと聞いてもはぐらかされてしまうから、聞けない。
私はまたあなたを見つめてしまう。
「そんな目で見るな」
だって…やっぱり消えてしまいそうだから。
光秀さんは私の唇を親指でゆっくり触ると「冷たいな」と言った。
そして、静かに唇を重ねた。
それが自然みたいに。
当たり前みたいに、私の唇を光秀さんの唇が触れた。
雪はきっと、何もかも隠してくれるから。
私たちのことも隠してくれますよね。
でも、どうか.…あなたの気持ちは気まぐれでも、残していってくださいね。
雪みたいに溶けて、なかったことにしないで。
この銀世界に誓って…。