第21章 私、人妻です〜織田信長〜
「産めば良い。そして育てろ。俺の子として」
「そんなこと…できません」
「何故だ?」
「そこまで、迷惑かけられない。私、そんなに甘えられません」
「急に俺の目の前から消える方が、不快だ。貴様はもうすでに俺の持ち物だ。とやかく言うな」
「普通、無理です。他の人の子を身籠った女なんて…」
「生憎、普通という言葉は嫌いでな」
「だって…私…」
そう言った途端、信長様に抱きすくめられた。
「此処にいろ。嘘でも他の奴が好きだとぬかすな。腹が立つ」
「…ごめんなさい」
やっぱり涙が溢れてしまった。
あぁ、抱きしめられるのってどうしてこんなに安心するのだろう。
抱きしめてくれているのが、信長様だからだ。
身体だけじゃなく、私の心ごと包んでくれるから。
もう、信長様の優しさからは逃げきれない…。
「…どうして、気づいたんですか?」
私は信長様に抱きつきながら聞いた。
「お前の体調の悪さから、家康は早々に気づいていた。お前がこっそり城下の医者の所に行く所を、光秀に尾行させたのが決め手にはなったがな」
今、さらっと凄いことを言いましたね?
「気づくの早いですね」
「馬鹿者。そうなるまで気づかんお前は、大概だ」
す、すみません…。
私は返す言葉がなく、黙ってしまう。
それに気づき、信長様はふっと笑った。
「こう思え。お腹の子が俺に父親になって欲しくて此処に連れて来たと。だから、お前が俺を助けた…と」
私は目を輝かせて、信長様を見た。
「どうだ?」
「すっごく良い考えです」
「少しは気が楽になったか?」
「…はい」
「ならば、それで良い。真実はわからん。事実も変えられん。だが、気持ちは変えられるだろう」
信長様の考え方にいつも驚かされる。
そう、こんな人が慕われみんなを導いて行くのだろう。
私は尊敬の眼差しで信長様を見つめた。
私と目が合うと、優しげに瞳が揺れて信長様が微笑む。