第21章 私、人妻です〜織田信長〜
暫く、私は毎日が楽しかった。
でも、すぐに気づいてしまった。
この幸せが長くは続かないことに。
私は結局、人妻だということに。
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「何処へ行くつもりだ」
廊下をこっそり歩いていた私は、後ろから声を掛けられ、飛び上がった。
「信長様!?あ、ちょっと、友達の所に…」
「こんな真夜中に、か?」
背中から汗が噴き出る。
この人は短い言葉しか発しないのに、こんなに迫力があるのは何故だろうか。
仁王立ちされ、私は震え上がった。
「その身体で夜中に出歩くのは感心しない」
「お前…身籠ったのだろう。何も告げずに帰るつもりだな」
私を見下ろす目は冷静で、信長様の感情が全くわからなかった。
「どうしてそれを…」
ふんっと信長様が鼻で笑う。
「俺が気づかないとでも思ったか」
「だって…」
「俺の子ではないから、言う必要はないか?」
そうだ。
私と信長様は一度だって夜を越えたことはない。
このお腹にいる子は…
私は急に目眩がして、ふらついた。
「しっかりしろ。此処は冷える」
そう言って、青くなっている私を横抱きにすると天守閣に運んだ。
私を褥に寝かすと、信長様が口を開いた。
「さて…帰ってどうするつもりだ」
「やり直します」
「ほう、そうか。なら、これが必要だな」
「…いりません」
私は起き上って答えた。
「やり直すなら必要だろう」
そう言って、私の手のひらに指輪を乗せた。
「…預かっていると言ったはずだ。やり直すならなぜ取りに来ない」
「そ、それは…」
「そいつのことがそんなに好きなのか?」
「す、好きです」
「そうか。ならば何故泣いている」
「信長様には関係ないです。私のことも、お腹の子のことも」
「お前の、子どもだ。関係ある」