第1章 朝が来るまで待って 〜明智光秀〜
それからも家康は私を心配して時々お茶に誘ってくれた。
「はい、あんたの好きな草餅。城下で買ってきた」
「わぁ!家康、ありがとう!だ…」
「ダイスキね、はいはい」
「あんた、それ誰にでも言ってんの?」
「え?えっとね、
信長様に言った時は秀吉さんに軽々しく目上の方に言うもんじゃないって怒られてね、
秀吉さんも大好きだよって言ったらまた男に気安く言うもんじゃないって注意されて、
政宗は…次言ったら押し倒すって言われたからもう言えないかな。唯一、三成くんは手を握って喜んでくれたよ?
あと、女中さんたちや城下でお世話になってる人にも…言ってるかな。
ありがとうと大好きは一緒に伝えようと思ってね」
でも、家康には1番言ってるかも…そう思ったけれど、口にはしなかった。
言ってる途中から呆れられているのを感じていたから。
「あの人には?」
「え…」
「あんたも大概、天邪鬼だね
本当に好きな人には言えないなんて。」
「うん…母親にも言われたことある。素直じゃないって」
「へえ」
「でも、そんな母も捻くれ者でね」
クスッと笑うと
「ちょっと家康に似てるかも。だから話しやすいのかな?」
「はぁ?あんたの母親代わりなの、俺って。秀吉さんじゃなくて?」
「うん…ちょっとそう」
なんか複雑だなと呟きながらも、家康は笑って私を見た。
「あんたは、そうやって笑った顔の方が似合うよ」
安心したようにそう言った。
やっぱり、家康のお嫁さんは幸せだなと思う。
こんなに優しいんだもん。
「ありがとう…家康」
私は微笑んだ。
しばらくして、私たちの仲が噂されるようになった。
家康は否定も肯定もしなかったので、私も何も言わなかった。
「くだらない」
そう家康は思っているのだろうと感じたからだ。
野暮なことは言わないに限る。
私は、そう理解した。