第1章 朝が来るまで待って 〜明智光秀〜
その姿を見て、家康は暫く黙っていたけれど
「忘れなよ」
そう言って、また書類に目を向けた。
「あんた、最近眠れてないでしょ?みんな口には出さないけど、心配しているよ」
「そう…だったの。知らなかった」
「あのね、三成にまで心配されるってよっぽどだよ?自分の寝癖にも気付かない奴に心配されてるって」
そう言われ、三成くんの寝癖を思い出してクスッと笑った。
そんな私を見て、家康はふうとため息を溢すと
「俺だってあの人が何考えてるのかわかんないのに、あんたにわかるわけないでしょ」
「え?」
「だからやめとけって言ったのに」
「…」
「なんで…わざわざ光秀さんなの。
あんたにはそんなの似合わないよ」
家康が私の側まで来て、腰を下ろした。
「そんな名前出されたくらいで涙が出るなんて…なんでそこまで我慢してたの」
家康が指先で私の涙をすくう。
上を向くと、家康と目が合った。
家康の目が心配そうに揺れている。
この人にこんな顔させちゃダメだ…。
申し訳ない気持ちになった。
「本当は誰かに話したかったんじゃないの、あんた」
そう、そうだ。
誰かにこの胸の内を聞いて欲しかった。
ただ、聞いて貰いたかったんだ。
また涙が溢れ出す。
「うん…ありがとう」
「詳しく聞こうか?」
「ううん、もう大丈夫。」
「そう」
「家康…」
「ん?」
「家康と結婚する人は幸せだね」
ピンっ!思いっきり家康におでこを弾かれる。
「…いったぁ!」
私はおでこを摩りながら、褒め言葉なのに、と呟く。
家康は、くしゃくしゃっと髪をかき上げ、大きく息を吐いた。
「あんた…その涙目でじっと見るの…」
「やめてよね。俺だって男なんだから」
家康は、真っ直ぐ私を見て言った。
「光秀さんには悪いけど、あんたみたいな子と2人っきりになって何もしないなんて…」
「俺だったら有り得ない」
と呟いた。
「え?家康、聞こえな…」
「大体ねぇ!」
「みんな、光秀さんみたいに特殊な人ばかりじゃないんだからね!男性の部屋に2人きりとか、特に夜とか行ったらダメなんだよ?わかってる?!」
「は、はい…」
「ほら、もうすぐ日が暮れるからもう帰りなよ」
「は、はい。ごめんなさい!」
慌てて部屋を飛び出した。
「全く、人の気も知らないで」
家康はまた、大きなため息を吐いた。