第21章 私、人妻です〜織田信長〜
「貴様、天下人の女になるつもりはないか…?」
顎を掬われ、紅色の瞳が私を見る。
こんな風に男性に見つめられたのは何年振りだろうか。
私は目を瞑って言った。
「む、無理です…だって私には………だ、旦那がいるんです」
思わず、声が震えた。
「はぁ?!」織田信長以外の声が広間に響く。
「ほう…。まあ、お前ほどの女ならそういう相手がいてもおかしくはない」
織田信長が私を見て当然のように言った。
「そんなこと…ありません」
私の目にみるみる涙が溜まっていき、私は顔を覆って泣き出した。
違う、全然違う。
私はずっと愛されていない。
こんな時代に飛ばされて、帰る所がない私だけど…もともと私に居場所なんてない。
私の悲壮的な泣き方に、他の武将たちも静かになった。
みんなの目には、旦那と離れたことの哀しみで泣いている様に映っているのかもしれない。
同情のような眼差しを感じ、私は居た堪れなかった。
違うの…私はずっともう女として価値がないんです。
私の結婚した人…そう、あの人は優しい人だった。
だから、この人で良いのだろうと思った。
告白を受け、お付き合いをし、結婚もした。
幸せだった。
でも…それは始めの何年かだけ。
私は子どもを望むと、彼も始めは協力的だった。
でも、結局は自分から排卵日に誘ったり、早く帰って来て貰って渋々してもらうのは虚しいことだった。
彼がどんどん冷めていくのを感じたからだ。
心が折れそうになった。
私は子どもが欲しいのではない。
彼との子どもが欲しいのに…
「そんなに子どもが欲しいのかよ」と呆れた顔で言われた時、辛すぎて…仕事に向かう電車の中で泣いたことがある。
私には価値がない。
そう思うのに時間はかからなかった。
そんな時、不安になり彼の携帯を覗いてしまった。
見ても何も良いことはないとわかっていたのに。
案の定、女の子との怪しげなやりとりを見つけた。
問い詰めると、彼は怒鳴った。
俺を疑うのか、と。
「不安にさせてごめん」
一言、私はそう言って欲しかった。
私は彼のその態度に涙も出なかった。
そして次の日、有給を貰い旅行に出かけたのだ。
彼には内緒で。
……そして、今、ここにいる。