第20章 罪な眼差し〜豊臣秀吉〜
「どうしたの、まあだ怒ってんの?」
「…怒ってないもん」
夜、秀吉さんの部屋に来た私は、ずっとそっぽを向いていた。
秀吉さんは二人きりだと語尾が甘くなる。
それが好きだけど、その話し方すら女の人を引き寄せているんじゃないかと腹が立った。
「どーすりゃ機嫌直んのか教えてよ、葉月ちゃん」
ずるい、こういう時にちゃん付けするの。
私はちょっと睨んだ。
「やーっとこっち向いたか…どうした?」
「昨日ね、城下でね…秀吉さんが知らない女の子と話してた」
「…ん?あぁ、あれか」
「あっ覚えてるんだ!その子のこと!」
「あ、いや…」
「可愛い子だったもんね。すごくっ」
「あの子は初めてこっちに来たって言ってたから、色々教えてあげてただけだよ」
「…知ってる」
「なんだ、知ってたのか。じゃあなんで…」
「秀吉さん、私に初めて会った時はあんなに優しくなかったもん」
「…あぁ、それは…」
「私も優しくされたかった!ずるい!」
涙目で怒る私を秀吉さんは困った様子で見ていた。
無茶苦茶な怒りだとはわかってる。
でも、初対面であんなに優しくされたら好きになっちゃうじゃない。
あの優しい眼差しで見つめられたら、親切にされたら…私みたいにすぐ好きになっちゃうもん。
これ以上ライバルを増やされたくない。
ううん、違う。
私は秀吉さんの優しさを独り占めしたいんだ。
そんなこと、無理だってわかっているのに。
私は虚しくなっていく。
秀吉さんに怒っても仕方ないのはわかっているのに。