第18章 銀杏並木でつかまえて*おまけの話*〜上杉謙信〜
朝、起きたら霧がかかっていた。
霧が辺り一面覆っていて、何もかも消えてしまいそうな…幻想的な世界。
「霧って、謙信様みたい」
私は呟いた。
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「なんか、今日の謙信様、元気なくね?」
「……幸村、なんか言ったのか?」
「なんで俺なんだよ」
幸村が佐助を睨む。
「幸村の率直で無神経で馬鹿正直な所、俺は大好きだ」
「…だいぶ悪口だぞ、それ」
「私も幸の痛い所をぐさっと言う所、嫌いじゃないよ」
「お前までなんだよ」
幸村は膨れて私を見た。
「もう、冗談だよ。でも、謝った方が良いよ。早めに」
「そうだよ、幸村。謙信様も言えば許してくれるよ」
「お前らな」
三人で話していると、信玄様が来た。
「姫、謙信はどうしたんだ?静か過ぎて不気味なんだが」
「そうなんですよね…私たちも心配してて」
「幸、聞いてきなさい。その方が謝りやすいだろう?」
「信玄様まで何だよ」
「まあまあ」
「まあまあじゃねー。誰が原因かわかんないんだから、みんなで聞きに行こうぜ」
「あの…謙信様、元気がないようですが、何かありましたか?」
私がみんなにせっつかれて、代表で聞くことになった。
「気にするな、なんでもない」
謙信様はこちらを見ようともしない。
「でも、謙信様が元気ないと私も悲しくなります。訳を教えて下さいませんか?もしかしたら力になれるかもしれないし」
「葉月は…俺をまだ精霊か何かと思っているのか?」
「私、何か失礼なこと言いました…?」
「俺を霧のようだと言っただろう」
あ、あれ謙信様聞いていたのか。
褒め言葉のつもりだったのに。
「神秘的で綺麗だったからですよ。嫌でしたか?」
「お前との距離感を感じたのだ」
「そうだったのですね…。大丈夫ですよ。私はずっと側にいますから」
私が微笑んで謙信さんの手を握る。
やっと謙信様も薄く笑い、安心したようだった。
そのやりとりを聞いていた男たちが後ろでコソコソ話をしていた。
「そんな理由かよ。くっだら…いてっ!」
「幸村、謙信様はピュアなんだ。ハートがガラスなんだよ」
「…お前、俺にわからないような言葉わざと使ってんな?」
「謙信が姫の言葉一つでこんなに落ち込むとは…人間らしくなったもんだ」
「おい、結局は俺のせいじゃなかったじゃねーか!」
終わり