第2章 縁は異なもの味なもの
扉を開けようと近づくと、中から話声が聞こえてきた。
「五条先生?生徒に見られたら大変なのでいい加減膝枕は終わりです」
「えぇ~そんなこと言ったって、ここ最近ろくに話もできてないし、いい加減真奈美不足で僕死んじゃうよ」
扉の隙間から漏れ出す甘い雰囲気に伏黒はあきれ果てる。
家入さんは不在らしい。
「だーめ!ほら、早く仕事に戻ってください!」
「僕の彼女はつれないな~」
そう言って男は扉の方へ目を向ける。
もちろん彼の目は隠れているわけで、伏黒と目が合ったかどうかはわからない。
が、少なくとも伏黒は「気づかれている」と察したようだ。
医務室とは、そもそも怪我や体調不良を訴える者・主に生徒が訪ね、適切な処置をしてもらう場である。
伏黒は至極まっとうな目的で来ているというのに、彼が何か悪事を働いているかのように見えるこの構図にいささか納得がいかない様子だ。
「まあ、そういうところにも惚れてるんだけどね」
そう言って男は彼女の鼻と触れそうな距離まで顔を近づける。
「今日部屋行っていい?」
伏黒の距離からは一体五条が彼女に何を言ったのかは聞こえない。しかし、そのあと彼女が頬を赤らめながら頷いたのをみて、およその検討はつく。
五条は彼女の額にそっとキスをし、部屋を後にした。
直前で扉から離れ、廊下の柱の陰に隠れた伏黒は、その後ろ姿をそっと覗き見る。
すると、五条は誰もいない廊下でその長い腕を上に上げ、手をひらひらと振っている。
明らかに伏黒に向けられたものであった。
こうして高校生男児の淡い恋は、
皮肉にも本人がそれを自覚するより前に
彼の担当教師によって散らされたのであった。