第3章 壊れる音の閑話【土方裏夢】
「いい匂い」
「さんは何にする?」
「え、あ、えっと……」
献立を見上げて悩んでいると、土方が容赦なく調理のおばちゃんに「日替わり3つ」と頼んでしまう。
「あ」
「こんな事で一々悩んでんじゃねぇ。それに、俺たちは暢気にランチ出来るほど暇じゃねぇのはわかってんだろ」
横暴ともいえる土方に、山崎は明らかに不満げな顔になるが、は黙って頷いた。
そして、用意するおばちゃんにこそりと頼みごとをする。
「すみません、全部少なめにつけてもらっていいですか?」
「はいはい。ちょっと待ってね」
「ありがとうございます」
特別食が細いわけではないのだが、短時間で食事を済ませようと思うと、どうしても食堂の通常提供量では多く、それもがこの場所を敬遠する要因の一つだった。
「はい、おまたせ」
「すみません、お手間を」
受け取った膳を手に席を探していると、山崎に「こっちだよ」と声を掛けられる。
向かいに座っている土方は、いつものようにご飯に大量のマヨネーズをかけ始めていた。最初に見かけた時こそも驚いたが、数度目ともなるとこの光景にマヒしつつある。
山崎の隣に腰を下ろすと、の膳を覗き込んだ山崎が、思わず「えっ」と声を上げた。
「さん、ソレ、少なすぎない?」
「あー…私、食べるのが遅いので。でも、このくらい食べられれば半日くらいは平気ですから」
「はー、やっぱり女の子なんだねぇ」
妙に感心する山崎の隣で、は苦笑しつつ「温かいうちに頂きましょう」と声を掛ける。
「そうだね。じゃあ、いただきます」
「いただきま――」
手を合わせたが挨拶をしょうとした瞬間、土方がの茶碗を持ち上げた。
「??」
「カロリー不足だな」
「え?」
が驚くより早く、無慈悲にもご飯の上に大量のマヨネーズがかけられる。
ドン引きする山崎の隣で、イマイチ状況のわからないが瞬きを繰り返していると、マヨネーズとご飯が8:2くらいの割合になった物が返却された。
「食え」
「あ、え、……ありがとうございます」
わけのわからないまま受け取ったは、その重さに驚きつつ隣に座る山崎をちらりと見る。
(すごい引いてる……)