第3章 壊れる音の閑話【土方裏夢】
(ふうっ、お腹いっぱいで苦しいな。少し休んでから副長のお部屋に伺おう)
満腹感と胸焼けに、胃の辺りを擦りながら控室へと戻る。
「まだ胸焼けが……」
気分を変えようと洗面台に行って歯を磨いていると、先程土方に掛けられた言葉が脳裏に蘇り、鏡に映る自分の姿を見ながら思案した。
(副長さん、少しは認めてくれたと思って良いのかな……?)
先程の土方の発言からは、いつものように悪意や敵意は感じられなかったが、あれを完食したことで評価が上がったのかと思うと、やや複雑な気分になる。
(出来れば任務で評価してもらえればいいんだけど……何となく、苦手なんだよね)
土方の威圧的な態度はをいつも尻込みさせたし、近づかなくてもわかる煙草の香りは、嫌でも”彼”を思い起こさせた。
(仕事に私情は挟まない。私はここで――真選組で頑張るって決めたんだから)
人事交流の話が上がった時、真っ先に手を上げたのは、傷心を癒やすためと言うのもあったが、自由な捜査が出来る真選組への憧れもあったのだ。
歯磨きを終えたは、「よし!」と気合を入れ直し、土方の部屋へと向かう。
その表情は幾分か晴れ晴れとしていて、自然と背筋も伸びていた。
(まずは副長さんに認めてもらえるよう頑張らないと。怖いとか苦手とか言ってちゃ駄目だよね)
前向きに努力をしようと決意を新たにしたの態度が、この後土方の感情を揺さぶり、二人の運命を大きく動かす事になる。
が望んでいたように、土方はその仕事ぶりを評価し、自分の食への拘りを受け入れた事を歪んだ形で受け入れて行った。
そうしてそれは、”愛情”の皮を被った”執着”へと変わる。
けれどは、最後の瞬間まで土方の想いには気づけなかった。
本当は、体を重ねて「孕ませる」と言われた今でさえ、気づけていないのかもしれない――
[おわり]