第3章 壊れる音の閑話【土方裏夢】
絶望的な表情を浮かべる山崎に、は覚悟を決めて箸を持つと、恐る恐るマヨネーズ丼を口に運ぶ。
(食べて食べられない事は無い。けど……殆どマヨネーズの味しかしない)
何とか咀嚼して飲み込むと、不安げな山崎に「大丈夫?」と尋ねられ、咄嗟に笑顔を作って答えた。
「はい。初めて食べましたけど、大丈夫そうです」
「えっ、もしかしてキミも副長と同じ味覚異常者――いっ!!!」
「誰が味覚異常者だ」
土方に思い切り足を踏まれた山崎は、痛みに悶絶する。
その姿に、今度はが「大丈夫ですか?」と山崎の安否を確認した。
「ううっ、いつもの事だから……」
どうにか復活した山崎を心配しつつ、は目の前の膳を片付けるべく必死で口に運ぶ。
(マヨネーズ丼……食べても食べても終わらない)
最早味云々よりも、その量に気が滅入った。
いくら食べても堆く絞り出されたマヨネーズは無くならず、定食のおかずもマヨネーズ味と化してしまう。
(味は殆ど気にならなくなったけど、やっぱり量が多い)
性分のせいか、出された食事を残すことに抵抗があるため、半ば無理矢理口の中に押し込んで咀嚼を繰り返していると、視線を感じて顔を上げた。
「?」
じっとこちらを見つめる土方に首を傾げると、ふっと目線を逸らされる。
意図のわからなかったはますます首を傾げるが、隣に座る山崎の「ごちそうさま」の声に、慌てて食事を再開した。
(あと少し……ああ、今になってマヨネーズがキツくなってきた)
どうにか最後の一口を飲み込んで、「ごちそうさまでした」と手を合わせる。
「さん、すごいね。ソレ、全部食べたんだ」
「はい、何とか。すみません、お待たせして」
「気にしなくていいよ。じゃあ副長、戻りましょうか」
「そうだな」
そう言って土方が立ち上がると、も慌てて空になった膳を返却口へ戻し、後を追った。
小走りで追いついたに気付いた土方は、振り返って薄く笑う。
「まあまあ根性あるじゃねぇか」
「え?」
「山崎、、十分後に俺の部屋に来い。俺ァ煙草買ってから戻る」
「わかりました。さん、俺は書類用意してくるからまた後でね」
「は、はい」
頷いたは去って行く二人の背中を見送って、溜息をついた。