第3章 壊れる音の閑話【土方裏夢】
「し、失礼をいたしました……」
消え入りそうな声で謝罪したに、音の正体に気付いた二人は気まずそうに目線を逸らす。
すっかり沈黙してしまった二人に、は軽く咳払いをすると「中断させて申し訳ありません。続きを」と、会話を促した。
土方は短くなった煙草の最後の一吸いをして煙を吐き出すと、灰皿に煙草を押し付けて立ち上がる。
「いや、詳細は近藤さんが戻ってから聞く。少し早ぇが、昼飯にして午後の会議までに計画を纏めておくぞ」
「それがいいですね。さん、キミも一緒に行こう」
「えっ、あ、はい。……すみません」
眉を下げて申し訳なさそうに身を縮こまらせたの様子に、山崎は僅かに胸をときめかせながら「気にしないで」と肩を叩いた。
「俺も腹減ってたし。それにしても、今朝は出勤も早かったけど、何か有ったの?」
「えっと……少し寝坊を。仕度だけして慌てて家を出たら早過ぎてしまって」
「だったら食堂で朝ご飯食べれば良かったのに」
「ありがとうございます。次からは、そうさせて頂きますね」
少しだけ困ったような表情を浮かべて応えたは、食堂へ向かおうと立ち上がった土方に釣られるように重い腰を上げる。
真選組の食堂は確かに味は問題ないのだが、それ程大食漢ではない上に食べるスピードが遅いにとっては少し躊躇う場所でもあったのだ。
(ご一緒する以上、待たせるわけにもいかないから量を減らしてもらわなくちゃ。せめて、軽いメニューがあれば良いのだけれど)
二人に気付かれぬよう小さく溜息をつくと、またしても空腹を訴えるように「くー、きゅるきゅる」と音が鳴る。
(ああ、恥ずかしい。どうして今朝に限って寝坊なんて――まぁ、理由はわかっているけれど……)
寝坊の原因は、夢見が悪かったからに他ならない。
真選組に異動になって早半月。
環境に慣れ始めて休暇に部屋の片づけをしてしまった。そうして見つけた、元恋人から貰った帯留めや思い出の品々。
(全部捨てたつもりでいたのに。思っていたより未練があったのかもしれない)
まさか、夢に見るほどまでとは思っていなかったが――と、が自身に呆れている間に食堂に到着し、調理場の匂いが鼻腔を擽る。