第3章 壊れる音の閑話【土方裏夢】
深窓の令嬢といった雰囲気とは対照的に、眼差しはどこか凜としていて、意志の強さを感じられた。
少し悩んだは、軽く化粧を落として写真を見ながら整えていく。
最後にシニヨン風に髪を纏めると、少しだけ写真の雰囲気に近付いた気がした。
(基が私だと、これが限界かな?)
山崎を振り返り、「いかがでしょうか」と尋ねると、手を叩いて絶賛される。
「凄いよ。本当にあの人みたいだ」
「この写真の方、お知り合いですか?」
「お知り合いって言うか、一番隊の沖田隊長の亡くなった姉上なんだよ」
「想い人だったんですか?」
「いやいやいや、そんなおこがましい。まぁ、色々有ってね。それに、彼女の想い人は──」
山崎が余計な事を言いかけたのとほぼ同時に、勢い良く障子が開かれて土方が姿を現した。
「山崎ィィっ!
テメェいつになったら報告書……、っ?!」
と目が合った瞬間、土方は息を飲んで立ち竦む。
凝視してくる土方に、は堪らず声を掛けた。
「土方副長、大丈夫ですか?」
「お前、まさか──」
「ですが……あの、どうかなさいました?」
首を傾げるの姿は、よく見れば彼女とは全く別人だとわかる程に違っているのに、纏う雰囲気や瞬間的な印象が土方の記憶を揺さぶる。
優しげな目元や、小さな口。
守ってやらねばと思わせる儚い表情。
後悔と僅かに残る恋心を思い出し、知らず眉間の皺を深くした。
そして、の手にある写真に気付いた土方は、逃げだそうとしていた山崎の襟首を掴み、無言で連れ去って行く。
「え?」
残されたは、屯所中に響き渡る山崎の断末魔を聞きながら不安げに吉村に尋ねた。
「わ、私何か気に障ることを……?」
「いや。取り敢えず化粧を直したら、仕事の話をする」
「はい。お願いします」
こうして、にとっては不安の残る中で真選組としての一日目が始まった。