第3章 壊れる音の閑話【土方裏夢】
(山崎以上に地味な奴だな。本当に役に立つのか?)
土方にとっては役に立たない方が都合が良いのだが、それでも限度と言うものがある。
居並んだ男たちが自己紹介を終えた後、近藤がに話すよう促した。
「じゃあ最後に、さん」
「はい。と申します。大江戸警察では情報部に所属しておりました。真選組では、監察方に所属させていただく予定です。宜しくお願いいたします」
響いたその声は、どこまでも穏やかだったが、の存在を一層不確かなものにする。
ざわりと胸騒ぎのような予感がして、土方は咥えた煙草をきつく噛んだ。
そんな土方の不安をよそに、近藤はにこにこと話を進める。
「じゃあみんな、宜しく頼むよ。困ったことがあれば遠慮なく近くの隊士に相談してくれ。みんな気のいい奴らだから、頼りにしてくれ」
すっかり歓迎ムードの近藤に辟易しつつ、新しい煙草に火を点けて肺を煙で満たした。そうするだけでも気持ちが落ち着き、冷静に判断しようと思考が働く。
(ん……?)
自分の方を凝視しているに気付いた土方は、睨みつけるようにして視線を返した。
そうすると、の瞳が僅かに見開かれる。
(何だ、人間らしい表情出来るんじゃねぇか)
そこで土方は漸く気が付いた。
不信感の原因は、が人形のように貼り付いた表情をしていたからだ。
「トシ?」
「っ、おう、何だ」
「そろそろ各部署に案内するから、トシはさんを頼んだぞ」
「はあっ?!」
「だって彼女は監察預かりだろ。直属の部下になるんだからな」
苦々しい表情を浮かべる土方に、近藤は苦笑しつつ宥めるようにその肩を軽く叩く。
今回の人事異動に関しては、近藤も多分に思うところは有るのだが、今後の真選組を考えると強く出られない事情があった。
「まぁ、半年って期間限定だ。穏便に頼んだぞ」
「穏便に、ねぇ……。ま、辞めるも逃げるもコイツらの自由だからな」
「トシぃ」
困り顔の近藤に不敵な笑みを浮かべると、何を考えているのかわからない表情のの前に立ち、冷たく見下ろす。
怯える事無く見上げてくるその顔は、土方の中の何かを刺激した。
「度胸だけは有りそうだな。けど、それだけでやって行けるほど甘い世界じゃねぇぜ」