第3章 壊れる音の閑話【土方裏夢】
一枚の書類を前に、土方は眉間の皺を深くして唸っていた。
書類には『大江戸警察と真選組のより良い関係を目指して』という表題とともに、い○すとや風のイラストで大江戸警察と真選組が手を繋いだ絵が印刷されている。
書類の中身はと言えば、色々と書き連ねてはいるが、将来的に大江戸警察と真選組の業務を一本化しようという政策の為に互いの職員ないし隊員、隊士を出向させ合おうというものだ。
拒否権などは当然なく、真選組からは数名の隊士が選抜され、大江戸警察からは思ってもみない人事が提案された。
「真選組初の女性隊士、ねぇ」
これまで女性隊士の居なかった真選組にはいい機会だろうと、大江戸警察から監察として女性職員が派遣されることになっている。その他は会計方などの事務職員のため、真選組としては戦力を奪われてしまっただけの人事となってしまった。
「ったく、上の奴らも何考えてんだか」
イライラと煙を吐き出しながら、吸い殻の溜まった灰皿に短くなった煙草を押し付ける。
「副長、失礼しますっす!」
「ああ、鉄か。どうした?」
「大江戸警察の方々が来られましたっす。局長から、広間に副長をお呼びするようにと」
「もうそんな時間か。仕方ねぇな」
渋々立ち上がった土方は、屯所内にも拘らず腰に刀を佩き、火をつけた煙草を咥えた。
見た目で威嚇し、早めに追い出すつもりだ。
向こうが勝手に根を上げたとあれば、特に糾弾されることもないだろう。
広間に着くと、前を歩いていた鉄之助が中に声を掛けた。
「副長をお連れしたっす!」
「おう、入ってくれ」
鉄之助によって障子が引かれ、中に入ってちらりと客人を確認した土方は僅かに眉を顰める。
(何か、頼りねぇ感じの奴らばっかだな)
近藤の隣に腰かけた土方は、ふうっと煙を吐き出して居並ぶ大江戸警察の職員を改めた。
私服に身を包んでいるせいか、唯一の女性として派遣されたの姿はよく目立っている。ただし、それは「違和感」としての存在感だ。
「トシも来たことだし、そろそろ自己紹介といこうか」
そう言って膝を打った近藤が話を進める間も、土方はを殆ど睨みつける様に見ていた。
微笑みを浮かべたその表情は、じっと見ていても印象に残らない。それ程地味でほんの少しも引っ掛かりを覚えなかった。