第2章 壊れる音【土方裏夢】
携帯電話をポケットにしまい、重い溜息をつく。
どんどん雁字搦めになっていき、身動きが取れなくなっている実感があった。
少しずつ、けれど確実に浸蝕されている。
そうしていつか、何もかも思い通りになってしまうのだろうという実感があった。
「ちゃん、大丈夫?」
「えっ、あ、すみません。山崎さん、今お時間良ければ明日の任務の確認に付き合って頂けますか」
「うん、いいよ。でもちゃん、顔色あんまり良くないから、無理しちゃだめだよ」
「ありがとうございます」
力なく笑ったに、何かを察した吉村は小さく溜息をついて近藤に提出する報告書を手に部屋を出て行く。
吉村がどこまで把握しているのか気になりつつも、は山崎と情報収集に向かい、軽く打ち合わせをして自宅に戻った。
鍵を開けて部屋に入ると、取り敢えず風呂に向かいシャワーを浴びる。
行為のままだった体が熱めの湯で洗い流されていくのをぼんやりと眺めながら、土方の言葉が呪いのように反芻された。
「孕んでも、愛してる」
ぞわりと全身が総毛立つ。
熱い湯がかかっている筈なのに、体の芯から冷えていくようだった。
シャワーを止めて擦るように体を洗うと、白い肌が赤らみ、少しだけ気持ちが落ち着く。
「やばっ、明日朝から任務なのに」
傷や腫れは潜入時に違和感を残してしまうので、普段は十分に気を付けて過ごしていた。
「監察失格だなぁ」
体と髪を洗ったは、自嘲しつつ風呂を出て鏡に映る自分の姿を確認する。
首筋に残る痕は化粧でどうにか隠せるので、特別問題はない。
「後はしっかり休んで、目の下の隈をどうにかしなきゃね」
髪を乾かして部屋に戻ると、念入りに手入れをした。せめて山崎に顔色の悪さを指摘されない程度には整えないとと思っていると、携帯電話が着信を告げる。
表示を確認して一瞬取るのを躊躇うが、意を決して通話ボタンを押した。
「もしもし」
『悪ぃな、もう家か?』
「はい。あの、何か有りましたでしょうか?」
『明日の件だがな、場合によっては張り込みになりそうだ。まぁ、山崎と交代での張り込みになるとは思うが頼んだぞ』
「わかりました。では、準備を整えておきます」
電話の内容が仕事の内容であったことにほっとしていると、土方が重い溜息をつき、は首を傾げる。