第2章 壊れる音【土方裏夢】
何とか気持ちを整えて、は監察の控室に戻ると、傷の心配をする山崎に「大丈夫ですよ」と笑って、お茶を淹れる用意を始めた。
吉村は何か言いたげに様子を窺っていたが、が平然を装っているのに掘り返す事は無いと思ったのか、の淹れたお茶をすすりながら仕事を続ける。
「それにしても、ちゃんはすっかり副長のお気に入りになっちゃったね」
「そんな、事は……唯一の女性だからと気を遣って下さっているだけですよ」
「そうかなぁ。まぁでも、ちゃんの好みのタイプって副長とは全然違うよね。明るくて、穏やかな人なんて真選組(ココ)には絶対いないだろうし」
返答に困って苦笑したは、次の仕事の書類に目を通した。
「次は山崎さんと一緒なんですね。かぶき町の小料理屋への潜入って……どうします?」
「えっ、あ、うーん、どうしようか」
「店の女将が目的の攘夷浪士の妹か――。だったら私たちも、兄妹を装って潜入するのが良いかもしれませんね」
「いいね。じゃあ、早速明日行ってみようか」
山崎と話していると、仕事に対しても前向きになり、不安な気持ちも少しずつ忘れていくことができて、すっかり油断してしまう。
「あれ、ちゃん携帯鳴ってない?」
「え、本当だ。失礼しますね」
文机の上に置きっぱなしだった携帯電話の画面を確認して、は一瞬唖然とした。表示された名前に覚えが無いわけではない。
「何で……?」
「もしかして、イタズラ電話?」
「いっ、いえ、あの、副長です。――もしもし」
覚悟を決めて通話ボタンを押し、敢えて山崎や吉村の前で対応する。
『――随分声が固いな』
「少し驚いたので。あの、ご用件は?」
『お前の次の任務だが、今日の見廻りで件の浪士を見たって隊士が居るんでな。帰る前に山崎と話を聞いておけ』
「はい。ありがとうございます」
隊士の名前を確認したは、通話を切って溜息をついた。
(任務の連絡一つでこんなに動揺してたら駄目だよね……それよりも)
携帯電話の真っ暗な画面を見つめて、眉間に皺を寄せる。恐らく土方の仕業なのだろうが、先ほど着信を伝える画面には「トシ」と表示されていたのだ。
(なんて悪趣味な…山崎さんに見られなくてよかった)