第2章 壊れる音【土方裏夢】
「なら、副長室に居る。俺の相手をさせてたからな。もう終わったから――そうだな、十分もしたら戻れるだろ」
通話を切った土方は、ぽかんとしているに電話を返すとよしよしと頭を撫でる。
「え、あの……」
「俺も近藤さんに呼び出されたから行ってくる。お前も少し休んでから戻れ」
「あ、はい。えっと」
何か言いたげに口を開いたあられもない姿のに、土方はごくりと喉を鳴らした。見上げてくる表情は幼く頼りないのに、行為の後で熱を持ち汗でしっとりと濡れた体は男の本能を刺激する。
軽い眩暈を覚えた土方は、隊服の上着を脱いでの肩に掛けた。
「落ち着くまで着てろ」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあな」
土方を見送ったは、隊服の前をかき合わせて大きく溜息を吐く。
「また、拒めなかった……」
隊服から香る煙草の匂いに、ぎゅうっと胸が締め付けられた。
流されて、行為に溺れて──
「どうしたいんだろ?」
昨日より、嫌悪感は薄れている。病院や薬の事を指摘された際は驚いたが、何故か諦めにも似た感情が勝ってしまっていた。
「孕むまで、か」
下腹部を撫でると、ポロポロと涙が溢れ出る。
「っ、何で……私」
ガラガラと日常が音を立てて崩れていった。悪いのは自分だと理解しているけれど、自分ではどうする事も出来ないこの状況がもどかしくて悔しくて虚しい。
肩に掛けられた隊服から香る煙草の匂いが、更にを追い詰めた。
止まらなくなりそうな涙を抑えるために、ごしごしと目元を拭うと小さく気合を入れ直す。
「仕事に戻らなきゃ。いつもみたいに、ちゃんと笑って」
顔を上げて背筋を伸ばすと、掛けられた隊服もブラウスも脱いでブラジャーをつけ直すために背中に手を回した。
「あれ?」
ホックがうまくひっかからず、一旦外して確認する。
「ああ、歪んでたんだ。お気に入り、だったのになぁ」
諦めにも似た溜息をついて、違和感のあるままブラジャーをつけてブラウスに袖を通すと、濡れた袖口に気付いて肌が粟立った。
隅々まで行為の形跡が残っている。きっとそう遠くない未来に真選組の隊士たちが土方との関係に気付くはずだ。
そうなればきっと、はますます流されてしまう。
状況に、そして、土方の思惑に――