第2章 壊れる音【土方裏夢】
青ざめた顔で震える山崎の隣で、は僅かに身を強張らせた。
土方の方へ視線を向けることが出来ず、じっと床をみつめる。
「、報告書寄越せ」
「あっ、は、ああっ!」
緊張していたせいか書類箱を落としてしまい、中身が辺りに散らばった。
「すみません!」
慌てて掻き集め、最後の1枚に手を伸ばした瞬間向かいから抜き取られ、はっとして顔を上げる。
「あ、す、すみません、……っ!」
「どうした?」
「あ、いえ、何でも」
は咄嗟に伸ばした手を背中に隠した。その手を見た山崎が、思わず声を上げる。
「あっ、ちゃん、血が出てるよ」
「っ、あのっ、大丈夫ですから」
「見せてみろ」
そう言って手を差し伸べた土方の姿に、は渋々隠した手を前に出した。
「書類の端で切れたのか」
「この位、平気です」
「手当てしてやるから来い」
手首を掴まれ、抵抗する間もなく土方の部屋へ連れ込まれる。
「あのっ、本当に何とも──」
振りほどこうとした瞬間、楽しげに細められた土方の目と合い、は息を飲んだ。
本能が、逃げろと告げる。
「この位、舐めときゃ治るだろ」
「──っ!」
血の滲んだ指先に舌が這わされ、の全身が粟立った。指先まで凍りついたように動かなくなり、思考が停止する。
硬直してしまったに気付いた土方は、にやりと笑うと薄く血の滲むの指をぱくりと咥えた。
「ひあっ!?」
ちゅっと音を立てて吸われ、は思わず声を上げて身を引くが、しっかりと掴まれた手首が外れる事は無く、咥えられた指先に土方の舌が絡む。
「副長っ!」
どうにか声を絞り出して叫ぶと、漸く解放されては大きく息を吐き出した。
「やっぱり駄目だな」
「え?」
「お前に触れると、我慢出来なくなる」
土方の手がの頰をゆっくりと滑り、顎を掴むとくいと持ち上げる。
「たった一日なのに、俺は今、気が狂いそうな程お前が欲しい」
「副、長……っ」
口づけられ、の体を恐怖が這い上がってきた。抵抗しなければ、逃げなければと思うのに、鼻腔を擽る煙草の匂いに意識が朦朧としていく。
「んっ、んうっ」