第2章 壊れる音【土方裏夢】
個室を出て、改めて鏡に映った自分を見たは、腫れあがった自分の顔に苦笑した。
「こんなに泣いたの、久しぶりかも」
ハンカチを濡らして目元に当てると、少しだけ熱が収まっていく。
爆発した感情は涙と一緒に流れてしまったのか、幾分か落ち着いてきていたが、土方のもとに戻る勇気が起きなかった。
暫くぼんやりとしていると、胸元に入れていた携帯電話が鳴り響いて慌てて取り出す。
「っ、――何だ、吉村さんからメールか」
ほっとしてメールボックスを開くと、「もう仕事は切り上げて自宅に戻るように」という一文とともに、体を労わるようにという言葉が添えられており、はほんの少し恐ろしくなった。
「吉村さんはどこまでわかってるんだろう――?」
普段は目立たない吉村だが、監察の腕はよりも数段上だ。山崎ほど目立った活躍がないのは、彼に割り当てられる仕事がより隠密性の高いものだからに他ならない。
「今日は、お言葉に甘えさせてもらおう」
了解する旨を返信して、は漸く厠から出た。
本当なら土方に断りを入れるべきなのだろうが、先ほどの吉村からのメールに「副長には連絡済みなので速やかに屯所を出るように」とあったので、後を任せて裏口から屯所を後にする。
帰り道、途中で山崎から体調を心配するメールがあり、は気遣ってもらった感謝と謝罪の言葉を返信した。
「いい職場で良かったなぁ」
監察の隊士たちは、唯一の女性隊員であるに対しても分け隔てなく接してくれるし、困っていればこうして手を差し伸べてくれる。
だからこそ、は監察を、真選組を辞めたくなかった。仕事が楽しくなってきていたのもあるが、自分の感情だけで逃げ出してしまうのは嫌だったのだ。
「……副長とのこと、ちゃんと解決させないとなぁ」
考えると胸の奥がずしりと重くなる。それでも逃げられる問題ではないことはわかっていた。
「取り敢えず、病院に行って相談してみよう。何とかならないかもしれないけど」
纏わりついてくる嫌な考えを無理矢理押さえつけて、は真選組より少し離れた場所にある病院に向った。