第2章 壊れる音【土方裏夢】
恐る恐る中に入ると、ぴしゃりと障子が閉められて、はびくりと体を震わせる。
「何で山崎なんて連れて来たんだ?」
「あ、あの、山崎さんが先日潜入捜査した不逞浪士と今回の調査で接点のある個所が見られましたので」
持参した書類を渡しながら、は該当の個所を指し示した。
「確かにな。でも別に、アイツが居なくたって確認できんだろ」
「ですが、このケースだと山崎さんが次回の潜入になるかと思われますので、確認していただいた方が宜しいのではないでしょうか」
「――いや、この件は吉村に回す。別件で山崎が使えそうな捜査があるからな」
「畏まりました。では、吉村さんを――」
呼びに行こうと身を翻したは、手首を掴まれ強く引かれ、土方の腕の中にぽすりと収まる。
「っ!」
「なぁ、コレはどうした?」
首筋の絆創膏を指先で撫でられ、は体を強張らせた。
「折角俺がつけた印が、これじゃあ見えねぇよな」
「あっ…」
いとも簡単にそれが外され、は土方の腕の中でぶるりと震える。苦手なたばこのにおいが鼻腔を擽り、言い知れない不安がこみ上げてきた。
硬直していると噛み痕のあたりを何度も撫でられて、は短く息を漏らす。
「んっ、ふあっ」
「こんな事で感じたのか?」
「ちがっ、あっ!」
噛み痕をきつく吸い上げられて、は唇を強く噛んだ。強制的な快感に、くらくらしてしまう。
「んうっ、んっ」
「ちゅっ…――はあっ、まあこれで変な虫は避けれるだろ」
満足そうな土方の声が耳元で聞こえて、の目から抑えきれなくなった涙がぽろぽろと零れ落ちた。
せめて泣き声はあげまいと、奥歯を噛みしめて必死に足に力を込める。そうしていないと、何もかも崩れ落ちてしまうような気がしたのだ。
(泣くな。こんな事で、泣いちゃだめ)
袖口でぐっと涙をぬぐい、半ば強引に土方の腕から抜け出すと、どうにか震える声で訴える。
「申し訳ありません。気分が悪いので、少し失礼いたします」
「あっ、オイ!」
逃げ出して厠に飛び込むと、涙でぐちゃぐちゃになった自分と目が合って思わず苦笑した。
「ひどい顔。本当、――最悪」
個室に入り、暫く思うままに涙を流す。どうにか声は抑えたが、泣き止む頃にはすっかり喉が渇いていた。