第2章 壊れる音【土方裏夢】
「昨日は何回連絡しても繋がらなかったから心配したよ~」
「すみません」
山崎との会話に、漸く肩の力が抜けた。
すっかり油断して山崎と暢気に会話をしていると、吉村に手招きされて柱の陰に連れて行かれる。
呆れた様子の吉村は「鏡を見てこい」と、に大きめの絆創膏を渡して部屋に戻って行った。首を傾げながら手洗い場に行ったは、吉村が言わんとしたことを理解して青ざめる。
「これ――」
首筋についた噛み痕は、の白い肌にくっきりと浮き出してきていた。山崎は気付かなかったようだが、見る人が見れば――そして、状況を知っている者が見れば「誰が」その痕をつけたのかすぐにわかってしまうだろう。
吉村は恐らく全て理解した上で、隠すよう言ったのだ。
は震える指先で絆創膏をつけると、纏めていた髪を下ろしてサイドに流し纏め直す。
「これなら多分、あまり目立たないはず」
鏡で念入りに確認してから控室に戻ると、山崎が「何で髪型変えたの?」と首を傾げて聞いてきた。
「きつく纏めすぎてて、ちょっと頭が痛くなっちゃって。それより山崎さん、副長の所に書類を出しに行くので付き合って頂けますか?」
「いいけど……」
「じゃあ、すぐ書類作っちゃうのでちょっと待ってて下さいね。あ、あの……吉村さん、ありがとうございました」
「ああ」
黙々と仕事をする吉村に声を掛け、は自分の文机について書類に視線を落とす。
(吉村さんが居てくれて良かった)
ほっと息をついて手早く書類を仕上げると、山崎を促して副長室へ向かった。
副長室の前に立つと一瞬強い眩暈に襲われるが、ぐっと堪えて中に居る土方に声を掛ける。
「副長、失礼致します。監察のと――」
「山崎です」
「何で山崎が居るんだ?」
開かれた障子の向こうに立つ土方に、は一瞬息を飲んだ。その声や雰囲気に、僅かに怒気が籠っている。
「え、いや、俺はちゃんに頼まれて――」
「じゃあ此処まででいいな。とっとと帰れ」
「帰れってそんな――」
「首と体が分かれる前に判断しろ」
「しっ、失礼しましたぁぁぁっっっ!!!」
一目散に逃げだした山崎に、は心の中で「山崎さんの意気地なし」と小さく罵った。
「、中に入れ」
「っ、はい――」