第2章 壊れる音【土方裏夢】
(特に何もつけられてはいないみたい。着物や鞄も大丈夫そう)
嫌な職業病だと思いつつも、ほっと胸をなでおろした。
「どうしたんだ?」
「いえ、あの――忘れ物をしてないか不安になってしまって。でも、大丈夫だったみたいです」
微笑んだは、ハンカチをきれいに折りたたんで鞄にしまいながら「あ」と小さく息を漏らす。
(さっきの人、もしかして「万事屋」さんだったのかな)
以前に山崎との雑談で聞いた特徴と、先ほどの三人が合致して、は一人納得した。
(銀髪、眼鏡、チャイナ服の三人組なんてそうそう居ないよね。そっか、あの人たちが……だとしたら、申し訳ないな。ハンカチ拾ってくれただけなのに、変な態度取っちゃった)
自分の事で精一杯過ぎたと反省していると、自宅の近くに着いた駕籠が停車する。
が財布を取り出そうと鞄に手を伸ばすと、横から土方の手に抑えられた。
「あの」
「俺もここで降りる」
「は?」
真意がわからずぽかんとしていると、支払いを済ませた土方に手を引かれて駕籠から降ろされる。
走り去った駕籠を見送って、は土方の表情を窺った。の自宅までは一、二分の距離なので、真選組の屯所までも十分歩いて行ける場所だが、何故か土方は繋いだ手を離さない。
(どうすればいいの?)
戸惑いながら土方の方を見上げ、は求められている答えを理解した。
「あの……一旦家に戻りたいので、来ていただけますか?」
「ああ」
指を絡めて握られた手に意識を集中させないようには顔を上げて背筋を伸ばす。
自宅について土方を招き入れると、玄関先でぎゅっと抱きしめられた。
「っ!」
思わず突き飛ばしそうになり、拳を握り締める。
の強張った体に気付いた土方は、ゆっくりと回した腕を離してその頬をそろりと撫でた。
「着替えるんだろ?」
「あ、は、はい。あの」
「ここで待ってるから、さっさと着替えてこい」
促され、は履物を脱いで慌てて寝室に駆け込む。
その姿を見送って、土方は持ち込んだそれを素早く設置した。
「警戒心があるんだかねぇんだか。まあ、俺には都合良いがな」