第2章 壊れる音【土方裏夢】
首を傾げたは、土方の態度を訝しがりながらも仲居に昨日同様マヨネーズを用意してほしいと依頼した。
(副長、何か機嫌が良いけど、どうしたんだろ?)
僅かに緩んだ口元や、いつものように瞳孔が開いているのに優し気なその目元に、の心臓が僅かに跳ねる。急激に居心地が悪くなったがもぞもぞとしていると、部屋のチャイムが鳴って慌てて玄関に向かった。
仲居からマヨネーズを受け取ったは、軽く深呼吸してから部屋に戻る。
「お待たせしました、どうぞ」
「おう」
「あの…、昨日設置した物はいつ取りに行きましょうか?」
「そうだな。ここを出る時に確認するか……いや、一旦出てから回収できるよう手配しておく」
「わかりました。それから――」
話を続けようとしたは、一瞬ためらった後口を閉じて俯いた。うっかりしていたが、ここに自分たちが仕掛けたのと同じものがないとは言い切れない。
「やっぱり、何でもないです。ご飯、頂きましょう」
「?」
「冷めちゃいますよ」
「いただきます」と、手を合わせて食事を始めたにつられるように土方も箸を上げた。その姿をちらりと確認したは、心中で盛大に溜息をつく。
(仕事中に余計な事考えちゃ駄目。まだ任務は完了していないんだから)
監察としての矜持をフル稼働させながら、次の行動を考えた。
(ご飯を食べたら、盗聴器を確認して、報告書の作成を──あ、一旦家に戻って着替えなきゃ)
無意識に渋い顔になっていくに、土方はほんの少し笑うと、深く皺を刻んだの眉間を指先でぐいと押す。
「わっ、なっ、何でしょう?」
「うまい飯食ってる時の顔じゃねぇな。折角なんだから、味わえよ」
「あ、はい……すみません」
指摘されたは、慌てて表情を取り繕い、卵焼きをパクリと口に放り込んだ。
「んっ……おいしい」
の崩れた相好に、土方は腰から背中にかけてゾクリと這い上がるような快感を覚えて喉を鳴らす。
いつだったか、食事は限りなく性的な物だから人に晒す行為ではないと聞いたのを思い出し、妙に納得した。食事をするの姿は色気があり、土方に先程までの行為を思い出させる。
(ヤバいな。本当に、限界かもしれねぇ)