第2章 壊れる音【土方裏夢】
何となく、こうしていれば満足するのだろうという予感があった。案の定、土方はを抱きしめたまま、何をするでもなくぼんやりとしている。
この状態なら別段実害がないので、は目を閉じた。
(あったかい……寝ちゃいそう)
急にやって来た眠気に、は欠伸をかみ殺す。
「んっ」
「どうした?」
「え、あ、すみません。少し、疲れて」
「ああ、イきまくってたからな」
「ちがっ、~~っ、寝てないからです」
揶揄う土方に、は小さく反論したが、当然軽くあしらわれて一層強く抱きしめられた。
「後一時間もしたら朝飯の時間だが、少しだけでも寝ておくか?」
「朝ごはん……ここで食べるんですか?」
「いや、向かいの部屋に用意してあるらしい」
流石高級旅館だななどと感心しながら、は重くなる瞼を軽くこすって土方の胸に頭を凭れさせる。
「ちょっと、寝たいです」
「わかった。ちゃんと起こしてやるから」
「お願いします……」
すうっ、と眠りに入ってしまったに苦笑しつつ、すっかり油断しているその体を撫でまわした。
先程噛みついた首筋には赤い痕が所有印として残っている。
この痕が消える前に屯所に戻り、に想いを寄せる隊士たちや、の処女を奪った男に見せつけたいという欲求が沸き上がり、もう一度きつく吸い上げた。
「んッ……」
「、大丈夫だ。お前はもう、俺のものだから――」
体も心も、もう離したりしない。
抱きしめた腕から伝わる体温が、漸く現実感を持たせる。思う存分行為に溺れて、何度も奥に注いで、こうして見える場所に所有印を残しても、言い知れない不安に苛まれるのに、腕の中で眠るの寝息や心音を感じるだけで満たされていった。
安堵の溜息をついた土方は、転がっているの携帯電話を引き寄せて中を確認する。
「仕事用だから隊士しか入ってねぇな」
メールボックスを確認すると、大半が監察の山崎や吉村とのやり取りだったが、中には下心をもってを誘う隊士からの物もあった。の返信は簡素なものだが、それでもしつこく連絡してきている者もおり、土方はそのいくつかを自分のアドレスに転送する。
「あとは……」
アドレス帳を操作して携帯電話を閉じた。