第2章 壊れる音【土方裏夢】
気付かれてはいけないと、冷静な自分が警告する。
(これじゃあまるで、副長に、恋してるみたいだ――)
頭に置かれた手が、また頬に、唇に、体に触れたらどうしようと、そんなことを考えてしまい、はごくりと喉を鳴らした。耳の奥で、爆ぜるような心臓の音が響いて、はゆっくりと両手を外して土方を見上げる。
「――っ」
土方が息を飲む音が聞こえ、は唇を震わせた。
この先に待っている行為が頭をよぎり、慌てて話を逸らす。
「あのっ、今何時ですか!?」
「は?」
「いや、えっと、一旦帰って報告をしなければならないのでは、と」
しどろもどろになりながら話すに、土方は部屋の時計を確認して「六時過ぎだな」と答えた。
「六時、過ぎ…?」
は眉を寄せ、頭の中で時間を巻き戻す。体感ではもっと短い時間のような気がしていたが、ここに来てから半日近くが過ぎていたのだとわかり、唖然とした。
どれほど長い時間を、行為に溺れていたのかと想像すると背筋が寒くなる。
(待って、お風呂に入ってたのが一時間としても、その後一時間も経ってなくて……考えるのはよそう)
少しだけ重い溜息をついて、は「そうだ」と自分の鞄を探して中から携帯電話を取り出した。
「うわ……」
「どうした?」
「あ、いえ、山崎さんから不在着信が何度か…留守電も入ってるみたいなので、ちょっと聞いてもいいですか?」
「ああ」
が操作すると、電話口から山崎の慌てた声が響いた。
『もしもし、ちゃん、大丈夫?今どこにいるの??副長と任務だって聞いたけど、副長も電話に出ないし、大丈夫?困ってたら電話して!!』
「すごい。一息で言い切った」
「どんだけ慌ててんだコイツは?」
「連絡した方がいいですよね。あ、でも、こんな時間に起こしたら可哀そう――」
が躊躇っていると、土方が横から電話を奪い取り、山崎に電話を掛ける。
「あ、えっ!」
3コール目が鳴るか鳴らないかで電話が取られ、山崎の声がスピーカーから聞こえた。
『ちゃん、大丈夫!?』
「大丈夫に決まってんだろ」
『へ、え、この声は……副長?』
「なら一緒に居るから安心しろ」
『いや、全然安心できな…じゃなくて、任務は――』