第2章 壊れる音【土方裏夢】
「晩飯の時、食べ損ねただろ?」
尋ねられ、ぱちくりと瞬きした。
一瞬、言葉の意味が理解できずに更に首を傾げる。その姿に、土方は堪らず喉を鳴らして笑った。
「えっ、どっ、どうして笑うんですか?」
「っ、だってお前、その顔……ふっ」
「なっ、えっ、そんな変な顔してましたか?!」
「いや、変じゃねぇよ。ただ、ガキみてぇだなって思っただけだ」
揶揄われているのだと受け取ったは、軽く土方を睨みつけて唇を尖らせる。その表情が、態度が、土方を欲情させるとも知らずに。
土方はぞくぞくと這い上がってくるような感覚を理性で押さえつけて、半分に切られたイチゴを摘まんでの口に押し当てた。
「口開けろ」
既視感のある一言に、の目が僅かに開かれる。
少し躊躇いながらも開いた口にイチゴが押し込められ、歯や舌に触れた土方の指先にの心臓が跳ねた。
「うまいか?」
「……はい」
「そうか」
そう笑った土方は、自分の指先をぺろりと舐めると「やっぱり甘ぇな」と呟く。
耳まで赤く染めたは、羞恥で潤んだ瞳を慌てて土方から逸らした。ほんの数日前と同じ光景のはずなのに、あの時よりずっと恥ずかしくて怖くてドキドキしている。
この動揺を悟られまいと、は皿の上に半分残ったイチゴを摘まみあげ、土方の顔もとへ差し出した。
「あの、どうぞ」
僅かに震える指先に気付いた土方は、少しだけ口の端を上げると、の指ごとぱくりと咥える。
咄嗟の事に、は一瞬思考停止した。咥えられた指先が甘噛みされた瞬間我に返り、妙な声を上げて指を引き抜く。
「ひえぇぇっっ!!」
「なんつー声出してんだ」
「だっ、だっ、だって、あの、今」
「お前が誘ったんだろ」
「さっ、誘ってません!」
真っ赤な顔で首を横に振るに、土方は堪らないといった様子で相好を崩した。その表情に、はますます慌てて熱くなった顔を両手で覆う。
(うわぁっ、本当に顔が熱い。めちゃくちゃ恥ずかしい)
あまりの恥ずかしさに逃げ出してしまいたくなっていると、いささか乱暴に頭を撫でられた。
「あんまり可愛い事してくれるなよ。また抑えられなくなる」
(ああ、もう顔を上げられない)
羞恥で目が潤み、心音が早くなる。