第2章 壊れる音【土方裏夢】
寝室に戻った土方は、煙草に火を点けて肺一杯に煙を送る。ゆっくりと脳が覚醒していき、冷静に今の状況を思い起こすことができた。
酷いことをしている自覚はある。
けれど、他の手段が思いつかなかった。
充満していく煙を眺めながらとの行為を思い出すと、少しだけ後悔が胸をよぎる。
けれど、それ以上に充足していた。全身の血が沸騰するほどの欲情。そして、あの幸福感。
「ふうっ……」
短くなった煙草を灰皿に押し付けて、最後の煙を細く吐き出した。何か飲もうと冷蔵庫を開けて、忘れていたそれに気づいた土方はふっと微笑む。
が戻ったら出そうと、自分用に水の入ったペットボトルを出して冷蔵庫を閉じた。
余程喉が渇いていたのか、一息で半分ほどを飲んで布団の傍に腰を下ろす。
「流石にもう、冷てぇな」
汗と体液で濡れてしまった布団は冷たく湿り、行為の後を思い起こさせた。そうしてぼんやり過ごしていると、仕度を終えたが脱衣所の扉を開けて出てくる。
少し血色の戻った肌は、手入れしたためかつやつやとしていていつもより幼い雰囲気を醸し出していた。
「えっと、あの…どうかしましたか?」
じっと見つめられていることに気付いたは、不安げに眉を寄せて尋ねる。
襦袢の襟元をきゅっと握りしめたに、土方は僅かに口元を歪めて立ち上がると近づいて引き結んでいる唇をそっとなぞった。
「そんなにビビらなくてもいいだろ」
「あっ、ごめ……申し訳ありません」
言い直したに苦笑しつつ、困惑している頬や唇を撫で擦る。恥ずかしいからか、の頬に朱がさし、満足した土方は手を離した。
名残惜しげに離れていく手を目で追ったは、自身の変化に恐怖を感じてそっと二の腕を擦る。
(鳥肌…、気付かれないようにしないと)
何故か、隠さなければならないような気がした。
「、喉渇いてねぇか?」
「えっ、あ、はい」
「こっち来い」
手を引かれ、食事をした部屋に連れて行かれたは、敷きっぱなしの座布団に座るよう言われ、黙って腰を下ろす。
「ちょっと待ってろ」
頷いておとなしく待っていると、冷蔵庫を開けた土方が何かを手に戻ってきた。
目の前にそれが置かれ、は首を傾げる。
「水菓子?」