第2章 壊れる音【土方裏夢】
嫉妬心や独占欲で気が狂いそうになる。その度に確認して、安堵した。
恋人でも、夫婦でも無いのに。
(この後俺は、どうするつもりなんだろうな……)
無理矢理手に入れて、孕ませようとしている。拒否できない状況を作ってまで。
「そろそろ流すので、しっかり目を閉じていて下さい」
「ああ……」
目を閉じて、されるがままに終わりの時を待つ。
暫くするとシャワーの音がやみ、頭を撫でられた。どうしたのかと土方が振り返ると、が少し困った顔で笑う。
「えっと……終わりました、よ」
「ああ」
それきり黙り込んでしまった土方に、は耐えられなくなり「お先に失礼します」と浴室を出た。
厚手のバスタオルで体を包むと、少しだけ緊張が解れていき、ほっと息を吐く。
洗面台の前に立ち鏡を見ると、すっかり疲れた表情の自分と目が合って苦笑した。
「酷い顔。こんな顔見られたら、また心配かけちゃうな」
いつの間にかに化粧を落としていた顔はやや青ざめていて、目の下に浮かんだ隈は疲労感をありありと示している。
備え付けのアメニティを見ると、メイク落としや洗顔だけでなくスキンケアやヘアケアも揃っており、後でゆっくり使わせてもらおうと思いながら浴衣に袖を通した。
髪を乾かそうとドライヤーに手を伸ばしたところで、土方が浴室から出てくる。その顔を見たは、慌てて新しいバスタオルを出して土方の肩に掛けた。土方は、自分より青い顔をしている。
「大丈夫ですか?!」
「ああ……なぁ、、」
「はい、どうしまし──」
手首を掴まれたかと思うと、ぐっと抱き寄せられ、は驚きながらも土方の背中に手を回す。
濡れた肌は冷えていて、少しでも体温をわけらたらと、は自分が濡れるのも構わず密着するほど抱きついた。
「大丈夫ですよ。ここに居ますから」
そう告げると、土方がホッと息を吐いて体の力を抜いたのがわかり、も安堵する。土方が不機嫌になるのが恐ろしいというよりも、今はただ心配だった。
状況に流されているだけかもしれないけれど。
「寒くないですか?」
「……寒ぃ」
「お風呂、入り直しますか?」
「いや、いい」
は首を横に振った土方から離れると、肩に掛けたバスタオルで頰の水滴を拭った。