第2章 壊れる音【土方裏夢】
「悪ぃ、大丈夫か。頭洗うから目ぇ閉じてろ」
「はい。んっ……」
シャンプーが垂らされ、土方の指がの頭をわしゃわしゃと掻いた。想像したよりも優しい指先に、はふうっと息を吐く。
(気持ちいい。眠くなっちゃいそう)
「気持ちいいな」
「え?」
「お前の髪。柔らかくて、すべすべしてる」
「長いからではないでしょうか」
余程触り心地が気に入ったのか、土方は何度も指の間に通した髪を梳いた。
実害はないので、はされるがままに飽きるのを待つ。ぼんやりしていると鼻がむずむずしてきて、ぶるりと震えてくしゃみをする。
「っくしゅん」
「寒いか?」
「少しだけ」
「じゃあ、流すぞ」
シャワーの湯が当てられて、は流れていく泡を見つめた。
流れていく泡が無くなりシャワーが止まると、土方がため息をつくのが聞こえて、は後ろを振り返り首を傾げる。
「どうしました?」
「ああ、いや……」
「……あの、良かったら今度は私が洗いましょうか?」
言ってしまってから、は自分の発言に驚いた。驚いたのは土方も同じようで、目を丸くしてを見ている。
「お嫌でしたら……」
「頼む」
遮るように答えられ、は「では」と場所を交代した。シャワーの湯を出して、指先で温度を確認すると、少しだけ現実感が戻ってくる。
「お湯かけますね。熱かったら教えて下さい」
土方の肩に手を置き、その上から湯をかけて「大丈夫ですか」と尋ねた。
「大丈夫だ」
「では、少しだけ目を閉じて下さい」
土方に湯をあてながら、はこの状況を受け入れている自分に自嘲する。ほんの数刻前、わけのわからぬままに体の関係を持って、困惑していた自分が、今や誘うような言葉をかけていた。
十分に濡れた髪をそっと梳き、シャワーを止めて掌にシャンプーをのせて軽く泡立てる。
「洗いますね」
洗っていると、自分とは毛質が違うのだと実感できた。
(さっき触った時は、もっと柔らかいと思ったけど……)
「なあ」
「はい、何でしょう?」
「随分手慣れてるが、その……」
「初めてですよ。美容師さんの見よう見まねです」
の解答に、土方はほっと息をつく。何かある度に、不安に苛まれた。
(最低だな。殆ど無理矢理しておきながら)